【学園警察A&A】前編_10

「…で?なんであの子自分の部屋からあんなんで出てきたん?」
部屋に入るなり眉間に縦皺でそう言うアントーニョに、ギルベルトは隠すことでもないので
「あ~、なんだかお前に見限られたって泣きながら部屋来たから、そのまま話聞いてやってたんだけど?」
と答える。

「へ??」
「なんか以前同じ学校でアーサーに何かしちまってそれに引け目感じてて、アーサーと一緒にいるんだけど、昨日何かで忍耐の限界が来て見限られたらしいって俺様は聞いたんだけど?」
「そんなわけないやんっ!!
親分出会ってから一度やってあーちゃんの事嫌になったことないでっ?!
昨日かてあーちゃん黙って出て行ってもうたから、これは怒らしたか~って思うて、もう罵られるの覚悟で謝りに行ったら部屋におらんから、一晩中寮中探し回って、朝になってもうたから戻ってきたところやったんやで?!!
そしたら泣きすぎて目が真っ赤なままで服とか乱れたあーちゃんおったから…」

「あ~、それで俺様、強姦犯か何かに認定されたわけか?」
「…ちゃうん?」
「ここまで来てまだそれ言うか。」
「……誤解やったら悪かったわ。でもあの子人見知り強い子やし、いきなり部屋泊まるような仲良い友達なんか作らへん気するんやけど…」
「あ~逆だからじゃね?」
「逆?」
「セクハラから助けたから?」
「それなんなんっ?!!!!」

グイっといきなり殺気を放ちながら身を乗り出して自分の腕を掴むアントーニョに、ギルベルトは、(あ、やべえこと言ったかな?)とチラッと思う。
…が、まあそこまで言わないと信じそうにない。
仕方ない…と、腹をくくって、それでも保険を打とうとした。

「殺しに行ったりとかはなしな?」
「無理や。」
「いやいや、マジ手出しはなし。」
「相手言わへんかったら、自分の事やと思っとくで?」
「………」
「………」

「お前捕まったら誰があいつ守るんだ?」
自分でも寒いせりふだと思いつつ言うと、アントーニョの顔がぱぁ~っと明るくなった。

「そうやんなっ!あーちゃんは俺が守ったらなっ!」

――…アーサー、見限ってない…こいつお前が見限らせようとしても見限らせるなんて無理な気がすんだけど、俺様……

なんだか疲れてきた気もしたが、ギルベルトは半分遠い目をしながらも、昨日アーサーに話して聞かせた自分の境遇についての話などをそのままアントーニョにも説明した。

「だからな、弟もこんな目にあってたら嫌だな~って思っちまったら、おせっかい焼いちまって、そのまま面倒見ようかなんて思っちまっただけで、俺様はあいつのこと別にそういう目で見てねえし…」

そう言うとアントーニョもなんとか納得してくれたようだ。

「ま、気が変わって手ぇ出したなったら殺すけどなっ」
と笑顔で言われたわけだが……。


「でも…あーちゃんになんもなくて良かったわ…。」
と、そのあとホッとしたように漏らした言葉に、ギルベルトは改めてアントーニョを観察した。

昨日遅くまで話していて寝不足で、さらに自室で着替えるため大急ぎで制服はおって廊下に出たためアーサーも大概ひどい格好だったかもしれないが、目の前のアントーニョもそれに負けず劣らずだ。

目の下には隈。
寮中と言っていたがどこまで探し回ったのか、髪には蜘蛛の巣やらほこりやらがついている。
どれだけ必死に探したのかと思う。

「お前もシャワってくれば?髪とかすごいことになってるし。」
と、ギルベルトが自分の髪をつんつん指差すと、アントーニョは己の髪に手を当てて初めて蜘蛛の巣や埃に気づいたらしく、
「あ~、ほんとや。こんなんで隣歩かれたら、あーちゃん嫌やんな。」
と言って着替えを持って備え付けのシャワー室に急いだ。

身綺麗にする理由もそれかよ、と、呆れると同時に、昨日あれだけ見限られたと泣いていたアーサーに教えてやりたいと思う。

こうして待つ事ほんの5分でシャワー室から出てくるアントーニョ。
早すぎだろっと思うものの、頭をタオルでガシガシ拭きながら出てきた時の第一声が

「あーちゃんはっ?まだ来てへん?」
だったので、なるほど、それで急いだのか、と納得した。

「あ~まだだけど…あのな」
「なん?」
「お前そこまで好きなら告白とかしねえの?」
もうしてやれよと思うわけだが、アントーニョは当たり前に
「日々好きやって言うとるんやけど、相手にされへん。」
とどきっぱりと言った。

逆に言い過ぎてダメだったのか…とギルベルトは肩を落とした。
そしてふと気づくと目の前の男もしょぼんと肩を落としている。

「親分のせいであーちゃん大変な目にあってもうたから…あーちゃんのほうには嫌われとるし、迷惑がられとるんわかるから、強くはでれんのやけどな。」

そういう様子は最初の殺されるかと思ったような迫力は微塵もない。
叱られて途方にくれる小さな子どものようだ。

「嫌われてたら…見限られたって泣かねえと思うけど?」
「そうやろかっ?!」
「…と、俺は思う。」

そんなやり取りをしていると、当のアーサーが遠慮がちに部屋に入ってきた。

「ギル…どこまで言ったんだよ?」
と上目遣いに睨むのに、アントーニョが隣でかわええ~と呟いている。
ああ、もうこいつには何をしても可愛いんだろうな、と、ギルベルトは内心ため息をついた。

「ああ、全部?つか、見限るどころか熱烈に愛してる話とか、朝っぱらから聞いちまってんだけど?」
「あ、…愛してるって…ギルいきなり告白されたのかっ?!」

「「ちっが~~~う!!!!!」」
と、そこには二人揃って突っ込みをいれ、そのあとアントーニョがマシンガンのようにだ~っとしゃべりはじめる。

「なんで親分がこんなんに告白せなならんねんっ!!
あーちゃんにきまっとるやろ、あーちゃんにっ!!
もうめっちゃ本気にされてへんみたいやけど、毎日毎日好きやって言うとるやんっ!!
昨日かてあれから即あーちゃんの部屋に謝ろ思うて行ったらあーちゃんおらんくて、寮中探し回ってもおらへんかったから、まさか事件にでも巻き込まれたかとかめっちゃ心配して、地下室から屋上まで、生徒が立ち入れる場所は全部探して回って、屋上のフェンス登って下に人落ちたりしてへんかなとか、確かめてみたりとか、もうホンマ死ぬほど心配したんやでっ!!
そもそもなんでこんなついこの前知り合ったような奴はギルとかあだ名で呼んどって、親分はアントーニョのままなん?
トーニョ♪とか可愛く呼んでくれたってええやんっ!!
あーちゃんにセクハラしくさった教師もそれ自体腹たつけど、どうせなら俺の前でしてくれたら俺があーちゃん助けたったのに、ホンマむかつくわっ!!!」

「………」
あまりの勢いに声も出せず、ただネコのような大きく丸い目を見開いたままのアーサーの顔がさ~っと赤く染まっていく。

あ~人間てこんなに急に顔色変わるもんなんだなぁ…と、ギルベルトがしみじみ感心する程度には……。


「……トーニョ…って……呼ばれたかったのか?」

真っ赤になって震える声で言うのは確かにDKとは思えない可愛らしさだが、突っ込むところはそこか?と、ギルベルトは指摘してみたくなる。
まず最初の告白するなら…というところに突っ込んでやれよと思うのは自分だけなんだろうか?
しかし突っ込まれた当人はとりあえずはそれも重要らしく、自分も赤くなりながらも
「当たり前やんっ!好きな子には愛称で呼ばれたいやん」
と、こちらはさらに好きな子と強調しながらもこっくりとうなづいた。

もうなんというか…自分ここにいない方がいいんじゃないだろうか?という気分になってきたのだが、タイミングを逃して消えるに消えることが出来ず、ギルベルトまで赤くなる。

「………ト…ニョ……」
消え入りそうな声でそう言うと、そのまま羞恥で目を潤ませてうつむくアーサーの様子に、色々たまらなくなったらしいアントーニョが、

「あーちゃんっ!あーちゃんっ、好きやあぁーーー!!!」
と、いきなり抱きしめる。

ああ…俺様ホント消えたいんだけど?
と、か細い抵抗をされても気にせず、アーサーをぎゅうぎゅう抱きしめたままつむじにキスを落とすアントーニョをみて、だんだん死んだ魚の目になっていくギルベルト。

そんなカオスな空気を破ったのは、軽いノックと共にいきなりドアを開けた一人の男だった。

「おっはよ~。結局どうだった…の…」
と、おそらく昨日のことを知っていたのだろう。
そう聞きかけて目の前で繰り広げられている光景に何か納得したフランシス。
そのままドアを閉めようとするその手を、ギルベルトが掴んだ。

「おま、逃げんなっ!!」
「え?お兄さん様子見に来ただけだもんっ!!」
「“みんなで”朝食だよなっ、ここはっ!!!」
「いやああぁああーーー!!!!」

そんなやりとりをしている二人に、またすごい勢いで抱きつぶされているアーサーがワタワタと助けを求める。

「お~い!!だから加減してやれっ!!アーサー潰れるっ!!!」
と、そこでフランシスの腕は逃げられないように掴みながらも、ギルベルトはアントーニョに声をかけた。
そこでアントーニョが慌てて腕の力を少し緩める。
そうしてようやく呼吸が出来るようになったアーサーはとりあえず…と、いったん逃げ出そうとするが、それはアントーニョにしっかり阻止されて、カオスな空気のまま、何故か4人で朝食に。



「ねえ…なんでお兄さんまで巻き込まれてるかな?」

カオスな空気とカオスな組合せに食堂中から注がれる視線に耐え切れず、寒いこの季節誰も使っていないテラスに陣取る4人。

そこで寒さにガタガタ震えながらフランシスが言うと、アーサーを挟んだ二人の視線が鋭くなる。

「「何か不満でもある(ん)(のか)?」
まるで燃え上がる太陽のような熱さと凍りつくブリザードのような冷たさ…その対極にあるような二種類の視線に貫かれて、フランシスはプルプルと首を横に振った。

「…確かにここ今の季節は少し寒いよな…」
と、そこで救い舟のようにアーサーがつぶやくと、パサリと左右からその肩にかけられる2枚の上着。

「いや、別に我慢できないほどじゃねえし。お前ら風邪ひくから自分の上着は着とけよ。」
と、それに慌てて上着を返そうと肩口に伸ばそうとした手は、

「「いや、別に寒くないから、着と(き)(け)」」
両方とも左右からつかまれ、テーブルに戻された。
そこでアーサーに困ったような目を向けられ、フランシスは引きつった笑みを浮かべながら

「あ~、お兄さんは寒いなぁ」
とつぶやいてみるが、その瞬間、

「「じゃあ熱いコーヒーでも被ってみるか?」」
と二人してアーサーの手を掴んでいるのと反対の手で自分のコーヒーのカップを掴むので、
「いや、別にそこまでじゃないからっ!!」
とフランシスは慌てて首を横に振った。

こうして両手をとられたまま、左右から口に運ばれる食べ物をひたすら租借するアーサーを挟んで、昨日ギルベルトの部屋でされた事件についてのアーサーとギルベルトのやりとりがアントーニョとフランシスに話される。

事件のために来たアントーニョと違い、フランシスには寝耳に水の話ばかりで、正直驚いた。
しかしそういわれてみれば、確かに不自然な事の多い事件なので納得する。

「つまりさ、未だに真犯人が校内にいるって事なわけね?」
自分で自分を抱きしめるように身を震わせるフランシスに、
「まあそういうことだな」
と、ギルベルトが淡々と答える。

「ちょっと…本当に勘弁してよ。もしかしてまた毒盛られたりとかする可能性があるわけ?」
思わずスープを口に運びかけたスプーンを持つ手を止めてフランシスが言うと、
「原因…わかんねえし、犯人もわかんねえから、目立つとそういう事もあるかもな…」
と、ギルベルトは困ったように眉を寄せた。

「ね、もしかして今坊ちゃんの口に運ぶもの、二人して味見してんのはそういうこと?」
とフランシスが指摘するように、二人は自分の皿の物をまず自分が味見してからアーサーの口に放り込んでいる。

その言葉に対してはアントーニョが
「当たり前やん。」
と大きくうなづいて肯定した。

当のアーサーはそこまで考えてなかったのだろう、何か言おうと口を開きかけるが、そこにまた食べ物を放り込まれて、慌てて租借する。

しかし慌てて飲み込んでから、

「ちょっと待てっ!」
と、次を放り込もうとするギルベルトの手を制して言った。

「犯人も手口もほぼ特定してる。」
「「まじかっ?!!!」」
「ほんとにっ?!誰よっ?!!」

3人に一斉に詰め寄られるが、アーサーは飽くまでマイペースに紅茶をすする。
そしてカチャンとカップをソーサーに戻した。

「動機はわからない。現在残ってる証拠もない。だから立証に協力してもらえないか?」

にこりとそう言うアーサーに意義を唱えるなんて人間はここにはいなかった。





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