【学園警察A&A】前編_7

ギルベルト


「ほら、飲めよ。」
コトリと目の前に置かれるマグ。

鼻の頭と目を真っ赤にしながら、アーサーはそれを手に取り、中のホットミルクをすする。
何故だろう…ついさっき知ったばかりの、決して親しみのわく顔立ちでもない、愛想が良いとは言えないこの男には、人見知りが強いと自覚のある自分なのに妙に弱さをさらしてしまう。

出会いが出会いだったからだろうか…。


今日の4時間目のことだ。
科学の授業が終わった時、前の学校の授業の進み具合を確認したいからと、そのまま教師に付いてくるように言われた。

そして科学準備室へ。

途中の廊下ですれ違った一人の男子生徒。
銀髪は珍しくないが、紅い目が珍しく、印象に残った。

科学準備室に着くと勧められるまま椅子に座ったアーサーの斜め後方に立った教師は、この学校は勉強が出来るか否かがものを言うから…と言いつつ、最初に言った通り前の学校の授業について聞くのはいいが、やたらと髪やら耳やら肩やらを触ってくる。

正直気持ち悪かった。

一通り授業の事について話し終わり、
「昼が終わってしまうので…」
と、アーサーが立ち上がりかけると、グイっと腕を掴まれて後ろから抱き寄せられた。

わけがわからず、でも驚きすぎて声も出ずにいると、いきなりガラっとドアが開き、教師は突き飛ばすようにアーサーを解放した。

「あ~、先生すみません、今日俺そいつとメシ食う約束してるんですけど、もういっすか?」
ヘラリと笑ってそう言ったのは、さきほどすれ違った紅い目の男子生徒だ。

「ああ、そりゃ悪かったね。行っていいよ、カークランド。」
教師は動揺もそのままに、アーサーをドアのほうへと促した。

「じゃ、行こうぜ」
と、男子生徒は呆然と立ちすくむアーサーの腕をグイっと掴んで部屋の外へと出すと、ピシャン!と科学準備室のドアを閉めた。

「あ、あの……?」
「余計なお世話だったか?あいつにベタベタ触られたりとかしなかったか?」
さっきすれ違っただけで面識のない相手に戸惑うアーサーにその男子生徒は食堂方向に歩きつつそう聞いてくる。

もしかして…助けてくれたのか……。

ふらりと力が抜けるアーサーを、さきほど掴んでいた腕の辺りをまた掴んで支えてくれる。

「あ~、普通んな事に免疫ねえもんな。
大丈夫か?そのあたりの階段なら滅多に人もこねえし、ちっと休むか?
なんなら俺様のパン半分わけてやるよ。」

苦笑するとキツイ印象を与える顔立ちが急に優しい感じになる。
悪いと思う気もないほどのさりげなさで、強がる気も起きないくらい気負いなく、うながされるまま階段を少し上がったところで座り込んだ。


「このあたりの階段は俺様の特等席なんだぜ。」
ケセセっと特徴的な笑い声を上げて、男子生徒は手にした袋の中からパンを二つ取り出して、一つをアーサーに渡してくれた。

「俺様はギルベルト・バイルシュミット。お前は?転校生」
「アーサー…。アーサー・カークランドだ。」

これがギルベルトとアーサーの出会いだった。

こうして二人してパンを齧りながら、ギルベルトはこの学校のことについて色々教えてくれた。
先ほどの科学教師が実は少年好きで、この学校は成績が全て物を言うということで教師に逆らいにくいのをいい事に、気に入った生徒がいると科学準備室に連れ込んでいたずらをすることがあるらしいということも…。

そして最後に学園祭の事件について少し触れて、その後、
「俺様なんだかその事件の真犯人っつ~ことになってるらしいからよ、俺様と会った事は内緒な?
たぶん色々言われっから、校内であっても知らん振りしとけよ?」
と、困ったように笑うギルベルトに、アーサーはブンブン首を横に振った。

「いいたい奴には言わせておけばいいんだ。俺はお前とメシ食ったりすんの結構楽しいし、それを隠そうとは思わない。」

うるさいのは嫌いだから明日もお前と一緒に食うぞっ!と、アーサーがガシっとギルベルトの袖口を掴んで宣言すると、ギルベルトは
「お前も物好きだよなぁ。」
と、少し泣きそうな顔で笑った。




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