疑惑
思い切り込み入った話をする気満々だったアントーニョは食堂でテイクアウトのサンドイッチを買って、フランシスを半ば強引に空き教室に連れて行く。
食事くらいゆっくりと…とフランシスがブチブチ言うので、
「なんなら親分がフランのメシも食うてやってもええで?
そしたらフランには食事やなくておしゃべりの時間やん?」
とにこりと笑って言うと、黙り込んで、同じく購買で買ったサンドイッチを食べ始めた。
「でもさ…」
ゴクンとサンドイッチを飲み込んでフランシスはチラリとアントーニョに視線を向けて言う。
「なんでそこまで過去の事件について気になるわけ?」
普通なら一瞬迷うところだが、アントーニョは即答した。
「殺人事件なんてあるとこならあーちゃん置いておくの危ないやんっ」
まあ…全ての事件において言えることではあるのだが…。
アーサーを事件の最中に放り込むなんて事は出来るならしたくない。
そして、どうしてもするなら絶対に自分が護衛につく。
今まで惰性で解決していた事件に最近は比較的真面目に取り組んでいるのは、問題が解決するまでアーサーが危険だから、その一点に尽きる。
だからその言葉は真実である。
「お前ってホントに…」
呆れたような笑みを浮かべるフランシスの言葉をさえぎって
「で?何が起こったん?さっきあーちゃん危ない言うたけど、あーちゃんに影響ありそうなん?」
と、矢継ぎ早に問いかける。
フランシスはその勢いに押されたように少し黙り込んだが、
「まあもう犯人も自殺して終わったって言われてる事なんだけどね…」
と、小さく息を吐き出すと、口を開いた。
「11月の半ばさ、学園祭の打ち上げやってた時、渡されたジュース飲んで死んじゃった奴がいるんだよ。毒入ってたらしくて。
死んじゃったのは学年でトップの奴でさ、その毒入りジュース渡したのは3位の奴。
うちの学校って卒業時に成績順で卒業証書とか渡されんのよ。
で、それで主席ってわかるからさ、割と良いあたりに勤めてるOBとかがチェックしにきて、大学卒業と同時に引っ張られたりするから、みんな必死でね。
それが原因じゃないかって言われてるから。」
「アホらし。それで捕まったら就職もなにもないやん。」
「うん…だからさ…実は何か裏があるんじゃない?って校内ではもっぱらの噂なわけ。」
「裏?」
「そそ。捕まったら意味無いのに自分がもろ犯人てわかるやり方で殺すのって馬鹿じゃない?
だから真犯人他にいて、3位の奴にどうやってか罪なすりつけたんじゃないかってね。」
「そういう意味で言うと…1位と3位がこけたら得すんのは……」
「そ、2位の奴。1位から3位っていつも接戦だったからさ、2学期の中間は確かに被害者が1位だったけど、1学期の間は順位入れ替わったりしてたから、今後もグルグルする可能性高かったしね。」
「んで、2位の奴ってどんな奴なん?」
「えとね…ちょっと怖そうな感じの奴で、群れないんだよね。いつも一人で他を冷めた感じで見てるタイプ?」
「それはまた…怪しい感じやな」
「うん。例の件もそいつが起こしたんじゃないかってもっぱらの噂だから、ますます一人っていうか…ね。」
「なんて奴?」
「ギルベルト・バイルシュミット。銀髪…は珍しくもないけど、目が紅いからさ、見ればすぐわかるよ。」
「…チェックいれとくわ。」
ギルベルト・バイルシュミット…真犯人かもしれない男…。
(間違ってもあーちゃんに近づけさせられへんな…)
アントーニョは内心思う。
まあアーサーも人見知りするほうではあるし、とっつきにくいタイプなんだとしたら、大丈夫だろうが、接触するのは自分がしなければ。
上手く近づければいいのだが…。
こうしてその後、その現場にもいたというフランシスからその時の様子を聞きだした。
その日は学年ごとに固まって、食堂で打ち上げをする予定だった。
1年は2クラスだが、A組もB組も入り混じっての打ち上げだ。
ジュースや氷や菓子などはそれぞれ担任が用意してくれていて、1年はA組の担任である、先ほどの数学教師ジョン・スミスがまとめて運び込み、それはこの学校ではいつもそうなのだが、現首席優先ということで、
「じゃ、とりあえず一番偉い先生様と主席様の乾杯からだな~」
と、容疑者、マイクにまず主席である被害者カールと教師自身の分のジュースをいれて渡すように命じた。
教師としては単にたまたま目に付いた生徒に命じただけで他意はなかったらしいが、一番最後の定期試験である2学期の中間の前、1学期の期末ではマイクとカールの順位は逆だったので、これはマイク的には非常に屈辱的な事だったのだろう。
これが殺人に走った一番の理由だと判断された。
その後、被害者はテーブルを挟んで教師と紙コップを掲げるだけの乾杯をし、教師はその時点で被害者と同じ所から取った紙コップに同じピッチャーからいれた氷をいれ、同じペットボトルから注がれたジュースを飲み干している。
もしそのいずれかに毒が入っていたなら、教師も死んでいるはずである。
しかし教師は死なず、数分後、被害者だけが亡くなった。
ゆえに、全く同じ条件の物を飲んで無事な人間がいる以上、渡す時に毒が混入されたとしか考えられないと結論付けられた。
「その時、例のギルベルトは?」
「ん~特に注目してなかったからよくわかんない。
仲いい奴もいないしね。
でも、被害者のカールの側にいなかったのは確かだよ。
3人それぞれにあまり仲良くないから、近づいて歓談なんかしてたらむしろびっくりで皆覚えてると思うし?」
「動機もあって、他に犯行行えた奴おれへんて…それ、もうマイクに決まりやん。」
確かに被害者加害者両方いなくなって得をするのは2位のギルベルトだが、どう考えても犯行は無理だ。
洗いなおすまでもなくそう思う。
何故ローマはこれを洗いなおそうなどと思ったのだろうか……。
(だめや…全然わからん……)
アントーニョはもうそれ以上考えるのは諦めて、目の前のサンドイッチの攻略に専念することにした。
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