【学園警察A&A】前編_4

学校生活


「この問題は…、カークランド、解いてみろ。」

科学の時間、教師に言われて立ち上がったアーサーは白墨を手にスラスラと黒板の問題を解いていく。

「ん。正解だ。さすが編入試験平均98点取っただけのことはあるな。」
教師が満足げにうなづきながらそういうと、教室内にざわめきが広がった。
一礼して席に着くアーサーに様々な視線が送られている。

「色々な意味で危なそうだよな…あの坊ちゃんって。」

その時ボソっとそう呟いたのはフランシス・ボヌフォワ。
アントーニョの隣の席の男である。

本人はなにげなく言ったのであろうその言葉は随分と不穏で、アントーニョとしては聞き捨てならない。

「どういう事なん?それ。」
とグイっとフランシスの腕を掴んで引き寄せると、そこでフランシスは初めてアントーニョが聞いていたらしいことに気づいて、肩をすくめた。

「深い意味は無いよ?」
「深い意味なくて危ないとか言うかいっ」

自分はアーサーの護衛なのだ。
どんな些細な危険からもアーサーを守る義務と責任がある。

「あ~、アントーニョってアーサーと同じ学校いたことあるって言ってたモンね。
そこってさ、進学校?
アーサーが普通の学校行ってるのも、お前が頭良い学校行ってるのも想像つかないんだけど?」

綺麗な顔をしているのに何故かヒゲ面。
頭は悪くなさそうなのに、なんとなく授業も適当で、飄々とつかみ所のない性格。
目的があって潜入しているアントーニョが言うのもなんだが、どことなく得たいが知れない男だと思う。
それでも馴染みやすい性格はしているので転校してそろそろ1週間だが、なんとなく一緒にいることが多い。

「その学校は勉強は全部能力別クラスやってん。上のクラスと下のクラスの差はめっちゃあって、あーちゃんはいっちゃん頭ええクラスで、俺はドベのクラスや。
それでもホームルームのクラスは一緒やったから。」

と、委員会の方が用意してくれた設定をそのまま伝えると、フランシスはふ~んと特に疑う様子もなく、ただ
「そういうのってさ、クラス決めの時にすごく殺伐としそうだよね。」
とどこか意味ありげにつぶやいた。

「ここも進学校やん?殺伐としとるん?」
「う~ん…まあ…色々?」
「そこまで言ったならちゃんと教えたってや。
気になるやん。」
「噂だけどね。学校側は必死に隠してるけど、うちの学校それが原因で殺人起こってるらしいよ。」
「それ…ほんまっ?!」
「噂だよ、ホントかどうかは知らない。」

「詳しく聞かせたってっ」
いきなり核心に迫る話にアントーニョが身を乗り出すと、
「お前ら、私語は慎めっ!」
と、チョーク二つが飛んできた。
それはそれぞれアントーニョとフランシスの頭を見事に直撃する。

「すみませ~ん♪」
フランシスはヘラっと教師に謝罪すると、今度はアントーニョに小声で
「聞きたいなら、昼にでもね。」
と、ウィンクして言った。

まあ…授業中にする話やないわな、確かに。
と、アントーニョも納得して、かといって名門校の勉強なんてちんぷんかんぷんなので、睡眠時間にあてることにする。
しばらく頭に何か当たっていた気がするが、幸い(?)眠りは深いほうだ。
いつのまにか時間が過ぎていたのか、体を揺さぶられて起きた時には昼休みだった。


「お前さ…懲りないって言うか…いくらスポーツ推薦枠だからってあれだけ堂々と授業中寝る奴って、お兄さん初めて見たよ。」

頭上からフランシスの呆れた声が降ってくる。

「そんなん言われたって、全然わからへんのやったら睡眠時間に充てたほうが有意義やん?」
「いや、そうかもしれないけどねぇ…」
「そんなことより、さっきの話の続きしたってや。」

アントーニョは食堂に行くためさっさと立ち上がったが、そこで教室内を見回して気づいた。

「あーちゃんおらへんっ!」
叫ぶアントーニョ。
「あ~、坊ちゃんなら先生に連れられていったよ?」
と、耳を塞ぎながら言うフランシス。

「先生…なんで?」
「さあ?勉強のこととかじゃない?転校生だし、前の学校と進み具合とかも違うだろうしさ。」
「…俺も転校生やけど?」
「……勉強…あからさまに興味なさそうじゃない?」
じと~っとした目で見られたので、なんだか腹が立って殴っておいた。
まあ…アーサーも教師と一緒なら安全だろう。
とりあえず今は少しでもアーサーの役に立つために、この男から情報を引き出さなければならない。

「まあ…しかたないわ。食堂行こ…。」
アーサーと一緒に居られるのは仕事で一緒の時のみなので、出来うる限り一緒にいたい。
一食分の時間をすごく損した気分になる。
互いにやるべきことはやらねばと思いつつもガッカリ感を隠せず項垂れるアントーニョに、フランシスは、もしかしてさ…と、口を開いた。

「アントーニョって、坊ちゃんの事好きなわけ?」
「見てわからん?」
「いや…わかるけど……」

隠すことでもなく、実際に隠してもいないので肯定しておく。

「あーちゃんに初めて会った瞬間に一目ぼれして、ちょっとその後迷惑かけてもうてん。
それが原因であーちゃんの側には嫌われとるんやけどな…。」

あかんわぁ…と苦い笑いを浮かべると、

「まだ人生終わったわけでもないし、大丈夫っ。挽回の機会はきっとあるよ。
なんならお兄さん協力しちゃう。」
と、フランシスはポンとアントーニョの肩を軽く叩いた。
意外にいい奴らしい。
得体が知れない奴とか思って悪かったなぁ…と、アントーニョは少しだけ反省した。
まあ少しだけだが…。





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