再会
「…なんでお前がここにいる?」
指令の通り、手荷物を部屋に置いて、今回の仕事の相棒がいるはずの寮の隣の部屋のドアを開けると、そこには先に来ていたためすでに荷解きも終え、普通に机に向かっていた相手が目を丸くしている。
もちろん旧知の仲だが、最後にあってから今日までもう2ヶ月と7日もたっていた。
その見た目は堅そうだが触れれば案外柔らかい落ち着いた金色の髪も、春の新緑のような綺麗な色合いのくるんと丸い目も、会いたくて会いたくて夢にまで見たもので、思わず口元が緩む。
アーサー・カークランド。
今回の仕事の相棒…そして…出会ってから数年来のアントーニョの片思いの相手である。
「なんでって…あーちゃんと同じやで?」
して良いならアーサーの転校に合わせて追っかけをするくらいはするが、仕事の性質上、自分が入る学校を自分で決める事は出来ない。
ゆえに仕事以外でこうやって一緒になるというのはありえないわけなのだが、
「同じって……事件が冤罪かどうか洗いなおすんだろ?
そこにお前がいて何の意味があるんだ?」
と、アーサーが言うように…そしてアントーニョが話を聞いた時に自分でも思ったとおり、知能派とは言えないアントーニョは、この手の仕事には不向きだ。
まあそれでも、本気で不思議に思っているというのを表に出してしまうあたりが、実は失礼だと普通なら思うところだが、そのきょとんとした表情が可愛いと思ってしまうあたりが、もう末期だ、惚れた弱みだ。
「えとな、考えんのはあーちゃんに任せるわ。
親分の仕事はあーちゃんの護衛と雑用やっておっちゃん言うとったし…」
ヘラリと言うアントーニョにアーサーは小さくため息をついた。
「お前…もしかしてローマ委員長に無理言ってないか?」
「いや?俺かて最初はあーちゃんと一緒やって知らへんかったし?」
「…そうなのか」
アントーニョの言葉にアーサーはホッとしたように肩の力を抜いた。
アーサーとの出会いは仕事を遂行中のことだった。
その時は集団万引き犯を追っていて、その中学の生徒会長として同じく犯人を追っていたアーサーに犯人の関係者かと疑われ…通常ならそこでうまくごまかすところなのだが、一目ぼれしてしまって嘘をつけなかった…いや、つきたくなくなったアントーニョが身分をばらしてしまったため、アーサーも口止めに裏教育委員会に引きずり込まれることになったのだ。
だからおそらくアーサーの方はアントーニョのことが好きではない。
当たり前だ。
前途洋々の名門の付属校の優等生。
そのまま普通に勉強していれば良い高校に行って良い大学に行って良い就職口につけただろうに、アントーニョに関わってしまったがために、勉強時間を割いて下手をすると月単位であちこちに転校。
裏教育委員会に関わった人間は最終的に公務員として裏教育委員会のスタッフという道が示されているが、勉強はもにょもにょだったアントーニョと違い、アーサーは自力でいくらでも良いところにいけたに違いないのだ。
危険な事も少なくはないし、ストレスもたまるだろう。
…最初から好かれる要素がまるでない…。
地の底まで到達するようなマイナスから始まった関係だ。
しかも…優秀な頭脳に加えて、やや童顔だが可愛らしい容姿、自分のように現場を這いつくばるような人間と違って、まるで上等なビスクドールのような真っ白で美しい肌に繊細さを絵に描いたような手足。
隠し切れない育ちの良さで、世慣れない、人慣れない様子なのも、ひどく心を鷲摑みにしてくれる。
そんなところはアントーニョだけではなく、仕事で転校した先々の学校で、ただの転校生としていつのまにか埋没するアントーニョと違って、多くの同級生を魅了して、尊いノーブルな存在として遇される所以である。
そんなわけだから、元がマイナスから始まっていなくても、そんな多くのライバル達を出し抜いて特別な存在になれる可能性など皆無に思われた。
それでも、ああ…好きやなぁ…と思う。
普通なら出会う事も口を聞く事もなかったであろう相手と、仕事とはいえ一緒にいられる。
それが嬉しいと思う気持ちを押さえられない。
好きだと思う気持ちも表さずにはいられない。
そのたび、やめろばかぁ!、と、良いとは言えない反応が返ってくるとしても…だ。
いや、元々白いためすぐ色づく頬を怒りに染めながら言うその様子が可愛すぎて、むしろそれを見たくてことさら口にしてしまうのだから、我ながら本当に仕方のない性格だと思う。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿