これを機にと、王族6家は一斉に代替わりを行った。
もちろんそれぞれまだ若く未熟な若者たちに全てを託すというわけではなく、先人である元当主がフォローできるうちに、彼らに国を動かすという事に慣れさせようと言う親心な部分が大きい。
提案された当初こそ疑問視されたその制度は、しかし半年の月日を経てかなり順調に行われており、各家の先代はそれぞれさすが我が跡取りと誉めそやし、一時は不穏だった国内もようやく落ち着きを取り戻して来た。
全てが順調にて平和…そんな国内で唯一影を落とすのが、アーサーの状態だった。
王族6家が参加する会議…アーサーはそれに今まで唯一参加していない。
もちろんシステム自体に異論があるわけではなく、体調不良に寄るものである。
その容態は初めの頃こそ父王が殺害されたショックに寄るもので時期に回復するだろうと思われたのだが、日を追うごとに悪化の一歩をたどっていた。
「王子…お食事ですよ。」
毎日聞き慣れた声で意識が浮上する。
目を開けると、ただの使用人というには過ぎるくらい尽くしてくれているトーリスの顔が見える。
「すまないな。用意させておいて悪いんだが…」
「ダメですよ。ちゃんと召し上がって下さいね。」
食欲が無いという言葉はトーリスに先回りされて却下された。
腰が低く、言い方もあたりも柔らかいくせに、この男は意外に頑固なところがある。
こうなると食事を取るまで休ませてはもらえないので、アーサーは仕方なくトーリスの手を借りて半身を起こした。
こうして諦めて食べるのが常なのだが、今日はフォークに伸ばしかけた手がピタリと止まる。
「王子?」
不思議そうにトーリスがその顔を覗きこむと、アーサーはしばらく何か考えこむように黙り込んだが、やがて顔をあげて忠実な使用人に言った。
「頼みがある。」
「はい?」
「これを食べたら……船を出させてくれないか?
海が見たいんだ、どうしても。」
「…海…ですか……」
王子がよく船を出させていたのはトーリスも知っている。
そう言えば最近…正確にはここ7.8ヶ月ほど全く出さなくなっていたが…何か心境の変化でもあったのだろうか。
「王子は昔から海がお好きでしたね、そう言えば。
でも、今はお体に障りますし、もう少し元気になられてからのほうが…」
「頼むよ。今じゃなきゃダメなんだ。」
と、普段は大抵は最終的にトーリスの忠言を聞き入れてくれるアーサーが、珍しくその言葉を遮って主張した。
常に無いことにトーリスは少し不安を覚えたが、
「トーリス…頼むよ。」
と、さらに重ねて言われれば、否とは言えない。
「わかりました。手配させます。」
だから召し上がって下さいね、と、止まったままの王子の手にフォークを握らせた。
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