それは帰る…という話が夢ではなかった事を示す言葉。
置いていく事への謝罪だ。
胸がずきりと痛んで、空気がそこで止まり体全体に行き渡らない…そんな感じがした。
苦しい…。
ズキン、ズキンと痛む頭は、それでもそれを言っても変わらないであろう状況を理解していた。
だが言わないと自分の中が悲しさで爆発してしまいそうだった。
「何故現れたんだ?!中途半端に見捨てるくらいなら、最初から関わらなきゃ良かったんだっ!!」
なんだかあちこちがひどい痛みで死にそうだ。
いや、いっそ死んでしまえたら良いのに。
もうどこが痛いのかわからないくらい、あちこちが痛すぎて、涙が止まらない。
「…悪い……本当に悪い…」
ギルベルトの口から出てくるのは謝罪のみで、いつもなら撫でてくれる手の感触はない。
それが悲しくて、アーサーはシーツをかぶって声を殺して泣いた。
わかっている。
彼は優しいのだ。
面倒を見なければいけない相手がたくさんいて忙しくても、泣いている子どもを見過ごせないほどに。
多忙な彼を1ヶ月も独占出来たのは、たぶんとても幸運な事だったのだろう。
昨日自分を刺しに来た少年の目を見ればわかる。
皆出来れば彼を独占したい。ずっと自分だけを見てかまって欲しい。
彼は皆に愛されている人物なのだ。
幸運だった。
1ヶ月も自分のために時間を割いてくれた事に対する礼を言うべきなのだ。
それがわかっててなお、恨み事しか出てこない自分は本当に子どもだ。
「…ごめんな。時間だ」
と、そこで初めてシーツ越しに頭を撫でる感覚がした。
離れていく手の感触にアーサーが慌ててシーツから飛び出ると、窓から飛び出るギルベルトの後ろ姿。
「待ってっ!!!いやだっ!!!!」
アーサーは叫んだ。
「言って良いって…我儘言って良いって言ったじゃないかっ!!
行っちゃやだっ!!行っちゃやだあぁっ!!!」
泣きながら叫ぶ声に、一瞬止まる足。
しかし、それも一瞬で後ろ姿は遠ざかっていく。
我儘を言う事を知らなかったアーサーの一番叶えて欲しかった我儘は、こうして叶えられずに消えていった。
残されたのは寂しい…満たされない心。
それがアーサーのみならず国全体をも蝕んでいくのを、この時は誰もまだ知る由もない。
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