パタンとドアが閉まって二人きりになると、ギルベルトはベッドまで歩を進めてアーサーの頭をゆっくり撫でた。
たった一ヶ月ですっかり慣れたその感覚の心地よさに、アーサーは目を細める。
もし本当に猫ならゴロゴロと喉を鳴らしていそうな感じだが、そのかわりにアーサーはスリッとギルベルトの手に頭を擦り付けた。
そんな無防備に甘えてくる仕草に、ギルベルトは今更ながら自分はとんでもない事をしてしまったのではないだろうか…と、後悔し始めた。
単に泣いている子どもを守って慰めて甘やかせてやりたい…そう思っただけなのだ。
無表情に泣く姿が痛々しくて、その顔に笑みを与えてやりたいと思った。
だが、笑みを与えて終わり…その先を考えてなかったのは大きなミスだ。
信頼させて甘やかしてそれで?
すっかり安心しきったところに保護を取り上げるのか?
自分は帰ったらそれでいい。
しばらくは可愛くじゃれついてきたこの子がいないのが寂しくて、それでも留守中にたまった仕事に没頭していればやがて紛れ、穏やかな想い出に変わる日もくるだろう。
しかし残されたこの子はどうなる?
何の覚悟もなく心を預けた挙句、いきなり置いて行かれるのだ。
「わりい…本当に…わりい…」
王でなければ…守るべき義務のある大勢の国民がいなければ、それこそこの子が要らないと思うくらいまで、水槽でも用意してもらえばそこで過ごす事もやぶさかではない。
今のように気軽に触れるには少々不便ではあるが、それでも頭を撫でて褒めてやるくらいの短時間なら呼吸くらい出来なくてもなんとかなる。
そんな風にギルベルト・バイルシュミットという個人と天秤にかけるなら、優遇できる程度にはアーサーが可愛く愛しい。
しかし海人の王、大勢の国民全てを犠牲に出来るかといえば、出来ないのだ。
心を許したアーサーも、王の帰りを待ちわびる国民達も…王が帰らぬ事を案じて暴挙に出たトーニョも、本当は悪くはない。
悪いのは自分だ……。
出来るならこの体を二つに裂いて、それぞれに与えたい…そんな出来るはずの無いことを思いつつ、ギルベルトはまた、悪い…と、呟いてベッドの上で半身起こしているアーサーを抱きしめた。
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