ビッグマーメイド_2章_満月の夜に

「トーニョはどこ行った?!あのバカ、まさかまた…」

海の底の海王の城では海王の怒声が響き渡る。
その声に王宮の女官達はすくみあがった。
ひらひらと色取りどりの尻尾を揺らめかせ、困ったように眉を寄せ合うマーメイド達。

「わかってんでしょう?トーニョならまた紙吹雪を追って海の上よ?
なんでも海の中で捕まえるのは飽きたから、今度は呼吸の限界と闘いながら海上でどのくらい追えるかにチャレンジしたいんですって。」
男の子って馬鹿よね、と、心底呆れたように言う宮廷お抱えの呪術師のエリザが、肩をすくめた。

「あんの馬鹿ぁがああ~~!!!!」
絶叫と共にギルベルトはバサッとマントを羽織り、玉座から立ち上がった。

「ギル、どこへ?」
幼馴染の気軽さでエリザが問えば、ギルベルトは大股に部屋の出口へと歩を進めながら
「わかってんだろっ!
あの馬鹿の頭をひっ捕まえて、今回は思い切りお灸を据えてやんねんえと!!」
と、答えて指をボキボキならした。

あらあら、と、笑うエリザ。
海王宮の問題児、トーニョがこうして海王にどつきまわされるのは今に始まったことではない。
もう何年もその様を眺めているエリザにとってはいつもの光景なので生温かい反応を示すのみだが、まだ仕えたての年若いマーメイド達には何か王の逆鱗に触れる出来事のように映ったらしく、部屋の隅でふるふると震えている。

その様子に気づかなかったわけではないギルベルトは、ドアの所でピタリと足を止め、震えている少女たちをまず振り返った。

「ワリイ。別にお前らを怒ってるわけじゃねえからな。
ちょっと悪ガキを仕置してくるだけだ。心配すんな。」
と、笑みを浮かべた。
それに若干ホッとして緊張を解く少女たち。

そこでギルベルトも少し安心した様子で、しかし念のためと今度は幼馴染の呪術師を振り返る。
そして
「ここのフォロー頼むわ。行ってくる。」
と、一言。
「はいはい、いってらっしゃい。」
とエリザの返答に、ヒラヒラと後ろ手に手を振ると、ギルベルトは今度こそ外へと出て行った。





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