自分を切ってしまいたくなるような夜には、アーサーは代わりに紙を切る。
ふわりふわりと小麦色の髪は海風に揺れ、子猫を思わせる大きく丸い…でも少し吊り目がちの目は涙で潤んでいる。
王子アーサーは皆に尊敬はされていて、しかし孤独だった。
――ちょっと理由があるんだ。
とだけ言ってしまえば、アーサーのその奇行を気にするものは誰もいない。
王子がなさることだから、きっと意味があるんだろう。
聡い王子、自分達とは違うのだから、その真意を尋ねるなどとはおこがましい。
――何故、紙を切っているんです?
そう聞かれればきっと本当の事は答えない。
自分でもわかっている。
それでも……聞かれない、気にされないのは悲しい。
そんな気持ちも紙と一緒に切り刻み、全ては誰にも知られることなく海の向こうへ消えていく。
悲しさも辛さも寂しさも…全ては切り刻まれて海の中。
ズキン、ズキンと痛む心は気のせいということにして、アーサーは今日も紙を切る。
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