トゥルー・エイプリル
電話をかけてから30分。
万が一のために日本まで待機していたのだがイギリスが目をさますことはなく、そうこうしているうちにスペインが息を切らせて部屋へと駆け込んできた。
「あれ?なんで日本ちゃんまでおるん?」
目をぱちくりするスペインに日本がまず、今回の一連はイギリスを心配した自分が巻き起こした騒動であること、日本自身はスペインの気持ちに気づいていたが、普通に伝えただけでは自己評価の低いイギリスは信じないと思った事、そこでスペインの方から近づいてくれないかと思い、イギリスにエイプリル・フールにフランスと付き合うという嘘をつくように言った事などを伝える。
「あ~…難しい事はわからんけど…」
スペインはそれをしばらく自分の中で整理するように俯いて考えていたが、やがて顔をあげる。
「日本ちゃんが親分がイギリスと一緒になれるよう協力してくれたって事か?」
その省略の仕方がいかにもスペインらしいなと思って苦笑しつつも、
「…結果的にはそうなりますね。」
と肯定する日本に、スペインはにぱ~っと満面の笑顔でその手を取ってブンブンと振った。
「おおきにっ!おおきになぁ~!!」
テンション高く浮かれるスペイン。
「イギリスさん、大切にしてあげて下さいね?」
「もちろんめっちゃ大事にするでっ!トマトの神様に誓ってほんまやっ」
と、カトリックのくせにトマトの神様かぃっと内心ツッコミを入れる日本。
まあ確かに、イエス様に誓って…というよりはスペインらしいと言えばらしいのだが…
そんな中で蚊帳の外をしていたロマーノが、――なあ…――と声をかける。
「俺ら消えた方が良くね?
朝起きたら知人勢揃いとかって何の羞恥プレイだよ…って気になると思うんだけど…」
――羞恥プレイっ?!なんですか、それっ!けしからんもっとやれっ!!
――あ~、日本ちょっと落ち着け。妄想は場所変えてやれ。
すっかり自分の世界に入ってしまった日本を引きずって、プロイセンとロマーノが部屋を出て行くと、スペインは上着を脱いで部屋の奥のベッドで眠っているイギリスの横に潜り込む。
――…ん……
その途端、ころりと寝返りをうって懐に潜り込んでくる想い人の愛らしさに頬がゆるんだ。
何かに――実際には自宅ではいつも一緒に寝ているティディベアに…なのだが――抱きつく癖でもあるのか、イギリスはそのままぎゅぅっとスペインに抱きついて、スリスリと頭をすり寄せる。
――うっわぁ~~かっわええ~~~!!!!
起こすのがもったいなくてそのまま悶えていると、白いまぶたがゆっくり開き、昨日さんざん泣いたため少し赤い目がゆっくりのぞいた。
――…ふぇ……?……すぺ……いん……?
まだ半分寝ぼけているのか、ぽやぁ~っと見上げてくるその瞳に笑顔の自分が映っている。
そう言えば、と、スペインは思った。
さっきはキチンと告白してなかった気がする。
プロイセンに指摘されてというのは悔しいが、確かに最初の日というのは大事だ。
なし崩し的に始まってなあなあで続ける様ないい加減な想いではない。
1000年近い片思いの集大成とも言える今日こそ、とくにキチンと伝えておかねば…。
スペインはそう思いつくと、パチパチと不思議そうに瞬きを繰り返すイギリスの顔をのぞき込んで、出来うる限りの思いを込めて言った。
――なあ、イギリス、聞いたって?
親分な、スペインちゅう国としては色々こうせなあかん、こうならなあかん言う事はあったんやけど、アントーニョ個人としての願いは昔からたった一つやってん。
かわええ北東の島国の化身をこの腕の中に抱きかかえて自分のモンにするちゅうこと。
あ、もちろん国ちゃうで?
人と似通った心と身体、アーサー自身だけでええねん。
朝起きたらおはようのキスして、美味いメシ作って食わしたって、出来る限り一緒に過ごして、愛しあう…。
そんな生活が出来たらもうなんも他に望むもんなんてないんや。
なあ…好きや…愛してる。
代わりのきかん“愛してる”んは今までもう1000年近く…そんでこれからもずっと自分だけや。
親分の永遠の恋人になったって?
個人でやれるもんなんてこの身と心まるごとくらいしかないねんけど、めっちゃ大事にしたる。
大事な大事なお姫さんにかしづくみたいに大事にしたるから、親分のもんになったって?
次第に赤く染まる頬をそう言ってソっと手でなであげると、イギリスの大きな目が戸惑いと羞恥に潤み、小さな口がパクパクと何か言おうとしては閉じる。
――…ん?どないしたん?
にこりと笑みを浮かべて努めて優しく促せば、震える唇から
――…お…お前が…どうしてもって言うなら……
と、いつものお約束のような素直でない返答が返ってくるが、否定でなければ十分だ。
――どうしてもやで。もう言質取ったからな?取り消しはきかへんよ。
と、それ以上色々言われる前に深く深く口付ける。
明らかに挨拶の域を超えたそれに、イギリスは慌ててポスポス可愛らしい抵抗を始めるが、スペインは口付けたまま小さく笑って自分の胸を叩くその両手をひとまとめにしてベッドに押し付けると、空いている方の手で、夜中に自らが着せてやったイギリスの寝間着のボタンを再度外していった。
――もう…我慢できひんわ……1000年分愛させてもらわな……
こうしてチェックアウトの時間までたっぷりと1000年分のほんの1部を取り戻し、スペインはグッタリとしたイギリスを抱きかかえて自宅へとさらっていった。
――あ…そう言えば……
早朝…スペインの部屋を出たあとプロイセンがふと口にする。
――今回はフランスの奴は無実だって特に言及はしなかったけど、あの話の流れだし、スペインの奴ちゃんとわかってるよな?
その言葉にロマーノも、あっ…と青ざめる。
わかってない…というかフランスが無実かどうかなんてスペインはきっと気にしない。
自分の愛しい想い人に嘘でも告白された役なんて任された…それだけできっと奴の怒りは燃え上がるだろう…。
――ま、まあわかんねえけど……国だったらきっと“潰されても”死なねえよな?
――ちょっ!!!お兄様っ!!潰されんの前提の話かよっ!!!
――いや、だって…あのそれでなくても愛情のドロッドロに重い、独占欲も嫉妬心もすげえスペインの1000年間も蓄積されて熟成されちまった想いだぞ?
まあ…あれじゃね?悪くても世界の“お兄さん”て名乗れなくなるくらいで……
――うああぁぁあ~~!!想像するだけで痛えからやめろぉ~!!!!
思わず股間を押さえるプロイセン。
――ふふっ…来年のエイプリル・フールは“お兄さん”が昨年の騒ぎで“お姉さん”にされました、というのでも良いかもしれませんねぇ。
――ちょ、日本っwwww
――それ…エイプリル・フールじゃなくなってるかもしれねえけどな……
…来年、『 “お兄さん”が“お姉さん” になりました』というのが本当にエイプリル・フールの嘘になるのかどうかは、まだ誰も知らない。
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