青い大地の果てにあるもの8章_6

敵襲っ!


スタンダードなタキシードの面々の中でいきなり現れた舞台衣装のような派手やかな衣装の6人に会場がわぁっと沸き立った。
その会場に満足気にはしゃぐ乙女達を見て、フランシスは苦笑した。

「もしかしてさ…お兄さんのとこの女の子達にやたら休暇願いが多かったのはこのせいなのかな?」
というつぶやきを拾ったアントーニョは、

「あ~うん。親分どうしてもタマと揃いの服着たくてお願いしてもうた。
フラン、堪忍なぁ」
と同じく苦笑して手を合わせる。

「いえっ!私達がどうしても作りたくて作ったんですっ!部長ごめんなさいっ!」
と、そこで可愛い可愛い部下のお嬢さん達に割って入られたら、それでも苦言を呈せるフランシスではない。

「いや。なんかお嬢さん達が楽しめたなら、お兄さんお留守番頑張った甲斐があったよ。
いつも皆頑張ってくれてるからね~。」

今日は思い切り楽しんでねという言葉と共にニコやかにそう部下達に声をかけた。

「お前…相変わらず部下に甘いよな…」

ため息まじりにそう言うギルベルトに、フランシスは
「お兄さんの部下はみんな働き者だし世界一良い子達だからね。
どうせなら気持よく働いて欲しいでしょ?」
と、パチ~ンとウィンクをしてみせた。

和やかな空気の中、一応開会の挨拶など述べているローマの言葉はほとんど誰も聞いていないわけだが、本人も一応格好がつかないからしろと下からせっつかれて仕方なくしているだけなので、気にしていない。

…というか、部下が作った台本を読み上げる合間に、『さすが爺ちゃんの孫、可愛いよなぁ』などと孫に目をやってデレデレとつぶやいているものだから、緊張感のかけらもない。
適当に台本を読み上げたあとは、楽しげに呑んだくれている。

そんな中、最初の音楽が鳴り始めると、当たり前に自分の側を離れようとするアーサーの腕を
「どこ行くん?!」
と、アントーニョはつかんだ。

「どこって…お前も適当にパートナー見つけろよ」
「なんでそういう事いうん?」
「いや…だって音楽かかり始めたし?踊るもんじゃねえのか?」
「踊るで?でもなんで他の相手見つけろとか言うん?」
「いや…普通女性と踊るだろ?」

当たり前に言うアーサーに、アントーニョはピシっと少し離れた場所でルートと楽しげに踊るフェリシアーノを指さした。

「……フェリは特別。ルートだって困った顔してるじゃねえか。」
「してへんで?あれはルートの地顔やっ。」
「いや、お前それは失礼…」
「タマの方が失礼やて。もうええやろ?踊るで?」
「ちょ、待てっ!!」

腕を掴まれてズルズル引きずられて行くアーサー。

「今日は祝賀会やし、無礼講や。楽しまな損やで?」
と太陽のような満面の笑顔を向けられて、
「楽しいのはお前だけだろ…」
と呆れたように言うものの、諦めてそのリードに合わせようとした瞬間……いきなり警報が鳴り響いた。

「え??!!!」
会場が騒然となる中、警備の担当者が会場に駆け込んでくる。

「敵がもう1km先に迫ってますっ!イヴィル2、雑魚10。すぐ出れそうなジャスティス4~5名即向かって下さい。」

「まじか…せっかくこれからやったのに……」
ここでアーサーが立候補しないなどという可能性はほぼないだろうと、アントーニョはがっくりと肩を落とした。

案の定
「わかった。すぐ行く!お前も行くよな?!」
と、警備に応えて、アントーニョを振り返るアーサー。

「タマ行くんやったら俺が出んとかありえへんやろ。
その代わりどついて戻ったら踊ったってな?」
と、なさけない顔で了承するアントーニョ。

「…女性陣は…その格好じゃ出れねえよな?」
と、駆け寄ってきたローマが長いドレスのエリザとベル、着物の桜に目をやって言う。

「わりいな、フェリ、ルート行ってくれ」
と、最終的にそう言うと、

「ああ、もちろんそのつもりだ。お前も行くよな?」
と、こちらはルートヴィヒが真面目な顔で頷いてフェリシアーノに促した。

こちらもこれにフェリシアーノが
「うん♪ルートが一緒ならいいよっ♪」
と、フェリシアーノがペターっとルートヴィヒに抱きつく。


「まあ敵の数と種類ははっきりしてるから、俺とフェリちゃんでイヴィル1人ずつ。
雑魚はタマが魔法で一掃するって事でええな?ルートはフェリちゃんのフォローを」
「「「了解」」」
3人はアントーニョの指示に答えてそれぞれ能力を発動する。

「じゃ、俺がイヴィルに向かったら即雑魚頼むわ。」
カットラスを担いでアントーニョが跳躍した。

アーサーは詠唱にはいり
「さて、じゃあ俺も」
弓を構えて撃とうとしたフェリシアーノが不意に硬直した。

「フェリ?!」
雑魚が迫ってくるのに備えながらルートが後ろに声をかける。

「う…そだ。アントーニョ兄ちゃん待ってっ!!!」
いきなりルートの横をすり抜けてイヴィルの一人と対峙するアントーニョに向かうフェリシアーノ。

「おいっ!待てっ!!」
ザクっとその肩に雑魚の爪が食い込んで肉を切り裂くのにも構わず進むフェリシアーノを、ルートがあわててガードにむかった。

そのルートにも雑魚の攻撃は容赦なく向けられるが、さすがに盾。うまく致命傷を避けてフェリシアーノのガードを再開した。

「アントーニョ兄ちゃん!だめだっ!!」
短剣を手に、背中から生えた触手みたいな物でも攻撃してくるイヴィルとカットラスで対峙していたアントーニョをフェリシアーノが血まみれの手で後ろから羽交い締めにした。

「フェリちゃん、何するんっ?!」
一瞬できた隙に短剣がアントーニョの腹に迫るが、間一髪

「させんっ!」
と、ルートがその間に割って入って盾でそれを防いだ。
そして後ろから着いて来た雑魚をとりあえず剣でうけながす。

「フェリちゃん、あかんてっ!」
その間にアントーニョはフェリシアーノを引きはがしにかかるが、攻撃特化の身体能力を持ってしてもなかなか引きはがせないくらい必死にしがみついている。

「フェリっ頼むからっ!」
前の敵と後ろの雑魚を一身にさばくルートも必死だ。
二人になんとか攻撃を向けない様にするため自分が血まみれになっていく。


何か様子がおかしい。
状況が全くつかめないルートはただ焦る。
焦りと前後に分かれるイヴィルと雑魚の対処でルートが崩れた。

「まずいっ!」
雑魚が1匹フェリシアーノともみあうアントーニョにむかう。

あわてて身を翻すが、前方の雑魚の攻撃がきて足止めされた。

「アントーニョっ、避けてくれっ。もう一匹行くぞ!」
一応声をかけるが、フェリシアーノともみあいながら多数の雑魚とイヴィル1体の相手をしているアントーニョに避ける術はない。

南無三!心の中でつぶやくルート。

しかしアントーニョに向かったはずの敵は逆に血飛沫をあげて絶命した。

「アーサー!」
ホッとするルート。

「みんな何をしてんだ?!」
闇の中に白い布を翻してアーサーが緑色に輝く鞭、ローズウィップをふるう。

「倒す気ないなら一旦下がれ。ポチは動けるな?!」

赤い花びらを巻き散らせて器用に敵をさばきながら、アーサーは次いで素早い動きでフェリシアーノの首元に後ろから一撃いれる。

カクリと気を失ったフェリシアーノをアントーニョが力任せに放り投げると、ルートがそれをすかさずキャッチ。

アーサーに補助されながら、一旦後ろに退いていった。

その一連の動きに心底ホッとしながらも、アントーニョは目の前の状況に萎えそうな自分の気持ちを叱咤する。

ルートは突然のフェリシアーノの暴走と乱戦で気付かなかったようだが、目の前のイヴィル2体は確かに知った顔だ…。

行方不明になっていたフリーダム隊員……。

遠距離系能力者で視界が非常に広いフェリシアーノは遠目に見た瞬間に気づいたのだろう。

なんとか倒さない方法はないのか…生かして捉えればどうにか出来ないのか…
そんな迷いから攻撃を躊躇している間にフェリシアーノに乱入されたわけだが…

(これ…やっぱり倒すしかないんやろな……)
心底気がすすまない。

「ポチ…大丈夫か?俺がやるか?」
迷っているといつのまにか隣で声がした。

それでハッと我に返るアントーニョ。
そうだ。自分はたとえ仲間でも友でも倒すと決めたんじゃなかったのか…。

「堪忍。目、覚めたわ。元仲間でも今は敵やんな。
倒さへんと今の時点での味方に被害が出るし優先順位を間違えたらあかんわ。」
と静かに言い放ってカットラスを構え直した。

「いつもいつもフォロー入るとは限らへんし、慣れておかなあかん。
タマ、雑魚は任せたわ。イヴィルは俺のために手、出さんといてな。」

そう…アーサーにそう誓ったんだった…と、思い出せばもう迷いはなかった。
ひどく冷静にイヴィルに対峙する。

ザシュッと伸びてくる触手を切り落とし、雑魚の合間を縫って距離を詰めると、一気に首を切り落とす。

その返す刃でもう一体へ。

その頃にはもう雑魚もある程度アーサーが片付けていて、1対1になれば勝負はあっという間につく。

「ポチ…大丈夫か?」
鞭で雑魚を地道に倒しながら心配そうに聞いてくるアーサーに、

「ああ。おかげさんで。タマのおかげでホンマ目が覚めたわ」
と、にこりと安心させるように笑みを浮かべて、アントーニョは雑魚退治を手伝い始めた。

こうして全ての雑魚が倒し終わると、アーサーはパチンと留め具を外して、衣装についているマントを広げ、それにアントーニョが落とした首を包む。

「…何しとるん?」
さすがにその行動に少し驚くアントーニョに、アーサーは淡々と

「イヴィルは元人間…いや、正確には改造人間らしいって事を上に報告するのに必要だろ?」
と、説明した。

ああ…やっぱり自分はまだまだだ…と、今の状況を冷静に受け止めた上で次に必要なことまで考えているアーサーを見て、アントーニョは思った。

「じゃ、親分胴体の方運ぶわ」
と、それでも首を切り落とした胴体を左手で、もう一体のイヴィルを右手で担ぎ上げる。

戦闘が終わった事を確認後、フェリシアーノを抱えたルートヴィヒも駆け寄ってきて、ようやくフェリシアーノの暴走の意味を悟ったのか、言葉をつまらせた。

「ま…報告して初めて任務完了や。行くで?」
そう言って先にたって歩き始めるアントーニョの後を、アーサーとルートヴィヒは足早に追う。

こうして出動組はそのまま重い足取りで研究室に向かった。


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