罪作りなエイプリル・フール_1章_4

日本さんの話


――イギリスさん?ああ、少し寝不足でいらっしゃるんです。

ロマーノが近づいていくと、日本に用事があるのだろうと察したイギリスはさりげなく、部屋で休んでくる、と、言い置いて、1人で自分の部屋へと向かった。

ああ、悪いことをしたな…と思いつつも日本にちょっといいか?と、声をかけると、さすが世界の空気を読む国ナンバーワンの名は伊達ではなく、

「ええ、込み入ったお話なら私の部屋でいかがです?」
と、ニコリと読めない笑みを浮かべる。

もちろんロマーノとて異論があろうはずもなく、連れ立って日本の部屋へと向かった。


その道々、世間話のようにと心がけながら

「そう言えばさ、イギリス様、どうしたんだ?
なんだか顔色悪かったみてえだけど。」
と、聞いてみると、前述のように寝不足だという答えが返ってくる。

しかし、何故?と聞いていいやら悪いやら迷っている間に部屋のドアの前に付き、どうぞ、と促されて部屋にはいった。

勧められるままソファに腰をかけ、ルームサービスでもと言われたのを断って、代わりに出された部屋に備え付けの美味しくはないコーヒーにおとなしく口をつける。


「それで…お話とは?」
同じくコーヒーを前に正面の椅子に座った日本に聞かれて、ロマーノは言葉に詰まった。

スペインにイギリスの様子を聞いてきてくれと言われたから聞きにきただけなので、それ以上の話は実はない。

「いや…あの…単にイギリス様調子悪いのかなと気になったから……」
さすがにスペインがとは言えるはずもなく、そう言って口ごもると、日本は少し小首をかしげて、

「ロマーノさん…実はイギリスさんの事をお好きだったりしませんよね?」
と、いつもの八つ橋はどこへやら、随分と単刀直入に聞いてくるので、ロマーノは焦って首をブンブン振った。

「い、いやっ。別に特別に好きなわけじゃねえよっ。…別に…嫌いなわけでもねえけど…。」

本当は好きか嫌いかと言われれば、少し好きに傾いている気はする。

なにせ感情表現が下手で悪気はなくても誤解されやすいのは自分と同じで…そんな不器用な処をアメリカやフランスにからかわれたりしているのを見ると、自分の事のように悲しくなる事も少なくはない。

そう…似ているところが多いだけに、実は秘かに親しみを持っていたりするのだ。
もちろん誰にもそんな事を言ったりすることはないわけだが…。

しかしロマーノはそういう意味では絶対にイギリスに好意を持つことはない。


――髪は風に揺れる小麦みたいな優しい金色で、目は春の新緑みたいにめっちゃ綺麗な緑色なんや。親分な、あのまんまるのキラキラした目でジ~ッと見上げられた瞬間、初めて自分が国に生まれて良かったって思ったんや。
この子と同じ年月を生きていける…それはめっちゃ幸せなことなんやって思ったわ。


自分の祖父が消えてから異教徒に国土の大半を占領されて消えかけて、それでも神の国を取り戻すためにと、自らを国民達の盾にも剣にもして戦ってきた…。

そうしてようやく異教徒を追い出して国としての体裁が整ったら、自分みたいに可愛げのない子分を守るために、やっぱり自分自身には何の得もない戦いを繰り返して、あまつさえそれを上司に怒られていた…。

そんな男が唯一自分のために望む願いを踏みにじる事など絶対にできない。
むしろ自分がその望みを叶えてやりたいくらいだった。

しかしそんなロマーノの気持ちを打ち砕く事実が日本の口から顕になった。

「ああ、それならいいんです。
実は…イギリスさんに好きな方がいらっしゃいまして…」

――え…?今…なんて……?
カップを持つ手が止まった。

どうなさいました?と、不思議そうな顔をする日本に、なんでもない、驚いただけだ…と、返すが、全然なんでもなくなどない。

本当に…泣きそうだ。

エイプリル・フールは今日じゃねえぞ…と、これが親しい仲の相手になら言ってやるところだが――まあ実際に今日ではない。もうすぐではあるが……――そんな言葉を吐く間柄でもない。

もう呆然とするしかない。

「最近ずっと悩んでいらして、あのようにしばしば眠れない事があって綺麗な瞳を真っ赤になさっているのがおいたわしかったので、不肖日本、ご協力させて頂こうと思い、提案したんです。
――断られる事が不安なのでしたら、いっそ保険にエイプリル・フールの日に告白されてはいかがかと…。」

「…いや、でもその場合、相手のOKも嘘の可能性が……」

「だまらっしゃいっっ!!!!!」

もっともなツッコミだと思ったのだが、日本の脳内では違ったらしい。
それまでの穏やかな様子から一転、恐ろしい形相でまくし立てられた。

「私の永遠のアイドル、心の嫁のイギリスさんをっ…あのように可愛らしい童顔ツンデレ料理下手と3拍子そろった、何その二次元っ、えっ?3次元?嘘でしょっ?!と言うしかない魅力に溢れたあの方をよもやふる男がこの世に存在するとでも?!
ありえませんよっ?!
そんな大馬鹿者は爺は男とは認めませんっ!
いえ、少なくとも攻めの男とは認めませんからっ!!
そんな輩は世界×そいつの総受けの薄い本を作って世界中にばらまいてやりますよっ!!」

言っている事のほとんどは理解できない…が、どうやら日本的にはイギリスを振る男などありえないのだから、OKが出た時点で嘘のはずがないという理屈のようだ。

言葉もなくその勢いに硬直しているロマーノに日本も少し落ち着いたのか、コホンと咳払いをして続ける。

「まあ…一応日付が変わった直後、寝入りばなを狙いなさいとはアドバイスしてますが…。
まだ寝ぼけていて相手の方はエイプリル・フールという認識が浮かばないうちがチャンスですし。」

なるほど…相手の本音を聞き出してその上でダメならエイプリル・フールの冗談と言う事ですませるということか。

そして…その時があの優しい男の夢が潰える時……。

いや、させねえっ!邪魔してやるっ!!


日本の部屋を出たあと、ロマーノは自室に戻って今回の会議に出席する国の名に目を通す。

イギリスが好意を持っていそうな国…とりあえずそれをリストアップだ。

基本的にはイギリスが好意を持ちそうでいて、しかしイギリス自身は相手に好かれているとは思ってない国。

まずイギリスが好意を持っていてもイギリスに対して明らかに好意を持っている国…英連邦とポルトガルあたりは省く。
逆にイギリスがそういう意味で好意を持ちそうにないあたりも省く。

こうして残った国々の中からさらに日本の言葉…――そんな大馬鹿者は爺は男とは認めませんっ!いえ、少なくとも攻めの男は認めませんからっ!!――からして、男役っぽくない男も省く。

そして残ったのは思い切りお約束だがフランスとアメリカ…。
さあどっちだ?
勝負はエイプリル・フールの前日から当日にかけての夜中の0時。
絶対に告白を阻止してやるっ!そのためには手段は選ばねえ。

さすがに他人を巻き込む事は事情が事情ではあるしできないので、どちらかに山をかけてその時間張り付く事にした。

…やっぱりより可能性が高いのはアメリカか…。
騙すにしてもなんのかんの言ってタヌキとキツネの化かし合いを繰り返してきた欧州の古参のフランスよりは騙しやすいだろう。

こうしてロマーノは告白阻止作戦決行のターゲットをアメリカに定め、張り付く理由の検討を始めたのだった。


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