当日-会議場にて
――ちくしょうっ!そっちだったのかよっ!!
会議当日…にこやかなフランスと少しうつむき加減にはにかんだような笑みを見せるイギリスが仲良さげに腕を組んで共に会議場入りした時、室内は騒然とする国と言葉を失う国の2種類に分かれた。
ロマーノはもちろん後者である。
そしてロマーノの元宗主国も……
いつもの騒々しさがなりをひそめ、淡々とした表情で…ただいつもは楽しげなそのエメラルドの瞳だけが静かに諦めと悲しみの色を浮かべていた。
「…昔から……好きやったんやろな。」
目は悲しみに染まっているのに、口元には浮かぶ笑み。
「…諦めんのかよ?」
そんな小さなつぶやきを拾ったロマーノがやはり二人に目を向けたまま言うと、
「しゃあないやん…」
と静かな声。
「あの子の幸せ壊されへんわ。」
――ずっと…不幸なんみてきたからな…
と、俯くその様子に、ロマーノは読み違えた自分の判断を心底悔やんだ。
まあ…本当に両思いなんだとしたら、ロマーノが1日邪魔したくらいでは結局くっついたのかもしれないが…。
しかし何もよりによってスペインが逃げることも出来ず見ていなければならない世界会議でくっつかないでも良いではないか……。
「なんだよ、おっさん達いきなりベタベタとうっとおしいんだぞっ!」
誰もが興味津々だが関わるのが怖くて遠巻きにする中、そこはさすがに空気を読まない国ナンバーワンのアメリカが、つかつかと二人に近寄っていく。
いつもはイラっとさせられるその無神経さも今日ばかりは応援したい気になるロマーノ。
アメリカ自身イギリスに特別な感情を持っているのは確かだし、可愛がってるアメリカの反対を受けていっそ別れてしまえばいいのに…とか、ひどいことすら考えた。
そんなロマーノの視線に後押しをされたわけでもないが、アメリカは当たり前に二人の間に割り込んで行こうとする。
が、そこで近づいてくる元弟に何か言葉をかけようとするイギリスの口を塞いで、フランスはその腰を抱くと、スルリとアメリカと反対側にイギリスを誘導した。
「悪いね、お兄さん愛の国だからさ。
可愛い恋人が側にいると隠そうとしても愛があふれでちゃうみたいで。」
ニコリと笑顔でそう告げるフランスに、アメリカは頬をひきつらせた。
「正気かい?!ネガティブで酒癖が悪くて、料理やらせたら兵器を作り出すようなこの人を本当に君、愛せるの?」
感情的になっているアメリカの言葉に、
――そのネガティブな気質を加速させた張本人が何言っとるんや。ツラい事多くてアホみたいに酒飲むから悪酔いするんやないか。そないな事言うなら側でちゃんと酒量セーブしたったらええねん。料理かて相手が苦手なんやったら、自分が作ったったらええだけやろ。
と、横でブツブツ黒いオーラーを出しつつ呟くスペインにため息をつくロマーノ。
それこそそう思うならアタックしてそうやってやれば、こんな事にはならなかったのかもしれないのに…。
そして…そのスペインの言葉を代弁するように、フランスの口から出る言葉の数々。
「あのねぇ、確かにお兄さんも責任あるかもしれないけど、坊ちゃんがここまで悲観主義者になった要因はお前にもあるからね?
まあ今後はお兄さんがいっぱい幸せにしてあげるから、少しはおさまると思うけど。
お酒を過ぎるのも、そんな暗い気持ちで飲んで飲み過ぎるからだよ。
だからこれからはお兄さんがちゃあんと美味しいツマミと一緒にお酒の量考えて飲ませるから、酔って暴れて他国に迷惑かけることも減ると思うけどね。
料理なんてそれこそお兄さんの得意分野じゃない。
坊ちゃんが苦手でもお兄さんが毎日毎日美味しいご飯用意するから構わないの」
と、最後にウィンクをして笑ってみせると、アメリカはグっと言葉に詰まって、しかし今度はイギリスへとターゲットを移した。
「君はっ?!君はどうなのさ、イギリスっ!!
こんな料理以外取り柄のない、変態で気持ち悪くて変態で変態で変態なヘタリア2号機なんて愛せるのっ?!普通無理だろっ!!
俺みたいに世界で一番カッコいいヒーローを日常的に見てる君には無理なはずだよっ!!」
――おい…お前さりげなくお兄さんにひどいこと言い過ぎ&自画自賛しすぎじゃないの?
と、フランスがそれでもイギリスの肩を抱きながら余裕の苦笑。
当のイギリスは恋人を貶められたせいか、ひどく悔しそうに拳を震わせる。
「確かに…経済も力もお前には敵わないは、変態と言われても否定しようがないどうしようもない男だけどな…」
――坊ちゃん、坊ちゃん、フォロー全然してない気がするのはお兄さんの気のせい?
――うるせえ、黙って聞いてろっ!!
「お前には上手い料理なんて作れねえだろっ!!」
――坊ちゃん……そんな餌付けで落ちたみたいな人聞きの悪い言い方……
「た、確かに俺自身は作れないけど、美味しいもの食べたければ一流のシェフ雇ってあげるんだぞっ。」
涙のフランスに、顔を紅潮させるアメリカ。
こいつ…一流のシェフ雇ってやるとか、自分が告白まがいの事言ってるってぜってえに気づいてねえよな…と、甘い空気が霧散したところで少しホッとそんな事を考えていたロマーノは、隣からドヨドヨ~っと暗いオーラが漂ってくる事にぎょっとして、スペインを振り返った。
「…メシ…メシやったんか…。上手いメシ食わしてやったら、落とされてくれたん…?」
がぁ~~っくりと肩を落とすスペイン。
まあ、あれはイギリス特有の照れ隠しなんだろうが、そんくらいなら親分目一杯作ったったのに…と、本気で落ち込むスペインには同情を禁じ得ない。
確かにフランスとは方向性が違うものの、スペインの料理は美味い。
落ち込みすぎて、その後の
――で、でも、お前相手だと思い切り殴ったり蹴り倒したり出来ねえだろっ!!
と、え?それって恋人の条件なの??と思うような発言がイギリスの口から飛び出た事はスペインの耳にもロマーノの耳にも入って来なかった事は幸いだ。
こうして開始時刻をかなり過ぎてしまった頃、ドイツが胃を押さえながら、
「これは…もしかして会議にならなくなるだろうか?」
と、その日はヘルプに来ていた隣のプロイセンに話しかけるが、プロイセンはヒョイッと肩をすくめて、
「あ~、始めちまえ。あれどうせエイプリル・フールの余興だろ。
イギリスとフランスはそれで会議中は元通りだ。
騙されてるアメリカはどうか知らねえけど…まあ、あいつどうせまともな意見言う事ねえから、議事には影響しねえと思うし。」
と、ケセセっと笑いながら弟の肩をポンポンと叩いた。
ああ…そうだったのか…と、そんな日だった事など全く頭になかったドイツは今更ながら眉間を手で押さえてそう思い、プロイセンはそんな弟に、
「な?お前も真面目なのは良いけど、ちょっとそういう遊びの部分にも目を向けねえと。
皆が皆自分と同じ感覚で動くわけじゃねえから自分の理屈だけで考えっと、近視眼的になって、状況の読みが甘くなんぞ。」
と、柔らかく苦言を呈する。
すでに身体の大きさも世界への影響力も、国の化身としての立場を失った兄よりは当たり前に大きいわけだが、それでも…こういう状況把握の能力とか知恵や知識は、この兄には本当に敵わない。
自分はこの人に育てられて、この人は確かに自分を育てた先駆者だ…と、ドイツは常々無意識に思っていることを、今あらためて強く実感した。
まあ…本人に言うと調子に乗るので、絶対に口にはださないわけだが……。
「あ~、とりあえず会議始めようぜっ。
痴話げんかはその後好きなだけやれっ。」
皆がそれぞれ落ち着かないその日の世界会議は、こうして珍しくドイツの怒声ではなく、プロイセンの掛け声で始まった。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿