親分の憂鬱・子分の不安
「ロマ…イギリスと日本ちゃんとはそういうんやない言うとったよな…」
世界会議前日…。
用意された会議場近くのホテルでチェックインしていたロマーノは、そんな不機嫌丸出しの元宗主国の言葉に振り返ると、あ~…と、額に手をやりため息を付いた。
少し沈み込んだスペインの視線の先には日本とイギリスの姿。
「別に…たまたま一緒になったんじゃね?
仲はいいし普段遠くて会えないんだから、一緒にいても不思議じゃねえだろ?」
と、機嫌が悪いまではとにかく何故そこまで落ち込むのかと不思議に思いつつ言うと、スペインはボソっと…――寝不足――と、つぶやいた。
「へ?」
「へ?やないわっ!
いつもキャンディみたいにまんまるでキラキラ澄んだグリーンの目がめっちゃ赤いやん。
なんとなく眠そうにトロンてした表情しとるし……。
あ~、あんなんで外歩いたらあかんわっ!ほんまあかんっ!
悪い輩にさらわれてまうわっ」
まくし立てるスペインの言葉を半分聞き流しながらも改めて注意して見ると、確かにいつもキリっとしているイギリスが眠そうなショボショボした目をしている。
どこを見ているのかわからない虚空をさまようような目……
「そういう色っぽい話じゃなくて…どっちかってえと体調悪いんじゃね?
顔色悪いし……」
と今度はロマーノがそう言うのにスペインがよくよく見てみれば、確かに顔が真っ白を通り越して青白い。
何かあったんだろうか……。
そう思った瞬間、スペインは泣きたい気分になった。
自分が自分の悪友たち…フランスやプロイセンなら、イギリスに当たり前に具合が悪いのか?悪いなら休めと声をかけてやれるのに…。
だが悪友トリオと呼ばれる自分達3人の中で唯一自分はイギリスに嫌われている。
体調が悪い時にそんな相手に声をかけられれば、余計に具合も悪くなるだろう…。
仲良くするどころか心配することも許されない…そんな距離感がとても悲しい。
「…ロマ…」
「あぁ?なんだ?」
「イギリス、どこか悪いのか聞いてきたって?
でもって体調悪いんやったら、ロマからイタちゃん、イタちゃんからドイツに話つけるからって、休むように言ったってや。
なんか助け必要な事あるんやったら、聞いてくれれば親分こっそり出来る限りの事するさかい…」
「冗談っ。なんで俺がっ。」
「なぁ、たのむわ、ロマ~」
ことイギリスに関する事になると、本当に後ろ向きな元宗主国にロマーノはため息をつく。
ラテン男の心意気はどこへ行った?
それでも結局ロマーノが断り切れないのは、はるか昔から…小さな島国の化身に出会った時の感動を、まるで宝箱の中の綺麗な宝石を出して愛でるように幸せそうに何度も何度も語る宗主国を見てきたからだ。
そして…その後、上司同士の婚姻で関係が近くなるとはしゃぎ…
しかしまだ幼い祖国が強国であるスペインに引きずられるのを恐れたあちらの上司が会わせてくれないと嘆き…
自国がかの国に代理戦争なんて無理難題を押し付けた挙句大怪我をさせたと言って号泣…。
それ以来会わせる顔がないと、それまでは会いたい会いたい叫んでいたのが、ピタっと止まった。
しかしロマーノは知っている。
それでも折に触れ、スペインが北東の海をぼ~っと眺めて過ごしていることを。
――…会いたいなぁ………
誰もいない時のみ、こっそりと紡がれる言葉。
いつでも、どんな苦境にたってもどんなに貧乏になっても笑ってロマーノを育ててくれたスペインのそんな悲しそうな様子を、ロマーノは幼い頃からただ黙って見守ってきたのだ。
――無神経なとこもあるけど、良い奴なんだよ。俺みたいな面倒な奴ずっと大事に育ててくれるくらい…本当に良い奴なんだ。
この元宗主国がはるか昔から大事に大事に想っている想い人に、そんな風に言ってやりたいところだが、生憎ロマーノ自身もイギリスと交流がない。
そして弟と違って交流のない相手にでも人懐っこく話しかけられる性格でもない。
だからせめてわずかでも知っていて交流のある相手にくらい…と、
「よお、日本、ちょっといいか?」
と、その隣の人物にちょっと緊張しながらも声をかけた。
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