青い大地の果てにあるものオリジナル_1_3_キャット登場

やがてパーティの開始時刻となり、主催のシザーが挨拶を始めた。

主賓...はなぜかまだたどり着かないらしく、主賓の代わりに同行した極東支部のブレインのトップ砂田の挨拶があり乾杯が始まる。

そんな中でアニーはひときわ人の集まっているあたりの人ごみをかきわけ、その輪の中心にたどり着いた。

そして
「ジャスミン、すっごく可愛いです!!」
と、ピンクのドレスのジャスミンに声をかけた。

「あら、アニー。ありがと~♪アニーのタキシードもとっても素敵!」

ジャスミンは白のタキシードを優雅に着こなしているアニーににっこりと可愛らしい笑みを浮かべる。

「いつものツインテールも可愛いですけど、今日みたいに髪を下ろしてカールしてるとお姫様みたいですね」
さらに続けるアニーに、ジャスミンの隣のファーが少し口を尖らせた。

「ジャスミンは...お姫様みたいだよね」

あまりお洒落に興味がないと言ってもやはりお年頃の女の子としては、露骨に双子の姉にしか声がかからないのはさすがに面白くない。

ファーの若干トゲのある言葉にアニーはようやく気づいてあわてて言った。

「そんな事ないですよっ!ファーだってお姫様みたいで可愛いです」

「ついでみたいに言わないでもいいよっ!」

と、プイっと横を向いたファーの目の前に、ふいにすっと先っぽに可愛らしい子猫のついた棒が差し出される。

「...?」

ファーが棒を受け取って不思議に思ってその人物を見上げると、
その人物はニコっと笑って言った。

「お土産。飴細工だから、どうぞ」

黒のタキシードを少し着崩して綺麗な微笑みを浮かべるその人物は、少しの癖もない真っ直ぐな長い黒髪に綺麗な切れ長の黒い瞳で、少しファーが尊敬する有能な同僚を思わせた。

「お兄さん...東洋人?」
上目遣いに見上げて聞くと、その人物はタイをスッと外して胸元に手をやり小さく

「発動...」
とつぶやく。

とたんに手のあたりが光り、その左手にクリスタルのウォンドが握られた。


そしてその人物がウォンドをクルクルっと回して上に向け、
「ファイアッ♪」
とまた小さくつぶやくと、ウォンドの先から花火のように炎が舞い上がる。

「わあっ綺麗っ!!」

その美しさに思わず手を叩くファーにまたにっこりと綺麗な笑みを向けると、その人物はまたクルクルっとウォンドを回し、
「解除っ」
とそれをペンダントに戻した。

そして
「おっけぃ。機嫌直ったね」
と、ファーの頭を軽くなでる。

「鉄線...ユリ?!」
その一連の行動を後ろで見ていたアニーがそこで口を開いた。

「ご名答♪まあ、これ見たらわかるのが普通だけどね」
とその人物はクリスタルのペンダントに指をやり、ニヤっと笑う。

腕がたって美人で気まぐれな東洋人...。

てっきりひのきみたいな無愛想なのを想像していたアニーは予想とかなり違う相手にポカンと言葉を失った。

「女の人...だったんだ、ごめんなさいっ!」

ファーはアニーの言葉にあわててペコンと頭を下げるが、ユリは気を悪くするでもなく飄々とした様子で

「気にしないでいいよ~。
まあ別に恋人探しに来たわけじゃないんだからどっちでも良いことだしね♪」
と笑う。

「うん、でも男の人だったら私告白しちゃったかもっ。
ユリさんとってもカッコいい!!」

ファーが思わず力を込めて言ったその時

「鉄線ゆり君?!」
さきほどの炎を見て、シザーがあわてて人ごみをかきわけ、ようやく妹たちの方へたどりついた。

「ども~。ジャスティスでっす」

シザーに向かっておどけて敬礼をするユリにシザーはちょっと戸惑った様子で

「着いてるなら一言声かけてくれれば...」
と声をかける。


「ん~~~壇上で挨拶とか勘弁っす。
そういうのはホラ、それようについてきた脳みそ部長にやらせてやって下さい」

ユリがそう言って極東支部ブレイントップ砂田を指差すと

「東洋人は...そういうの嫌いな子多いのかな」
と、シザーは苦笑した。


そして
「ところで...」
とあたりを見回す。

「睦月なずな君は?」
確かユリと一緒に来るはずだったもう一人のジャスティスの姿も見えない。

「ああ...なずなは...逃げましたけど?」
シザーの言葉にユリはシレっと答えた。

「はあ?」
シザーはポカンと口をあける。

「""は可愛くて優しくておっとりした女の子じゃなかったんですかっ?!!」
そのシザーを押しのけてアニーがユリに詰め寄った。

その勢いに少し目を丸くしてユリはアニーを指差した。

「これは...同僚?」
シザーに目をむける。

「うん、ジャスティスのアニー君。
剣と盾装備の攻防バランス型ジャスティスだよ。
で双子は格闘。
こっちのショートヘアの方がファー、ロングヘアの方がジャスミン。
二人とも僕の妹でもあるんだ。仲良くしてやってね。
んで、ああ、丁度いいところへ...」
ホップがやはり人ごみをかきわけてきたのに気づいてシザーが紹介を続けた。

「今来たのがホップ君。ライフルだから遠距離タイプ。
んであと一人...ひのき君は?逃げた?」

ホップに聞くとホップはユリをじ~と凝視しつつ

「もちろん」
と思い切りうなづく。

「というわけらしい。」
と、シザーはユリに苦笑しつつ肩をすくめた。


「で...睦月君が逃げたというのは?」
一通り紹介したあとにシザーが改めて聞くと、ユリはチラッとアニーに目を向けて言う。

「""は...ある意味そっちの坊やの言うとおりなんだけど...今回は私が私の安眠のために逃げておけって言っといたんで...」
「安眠?」
聞き返すシザーにユリはうなづく。

「なずなは砂ちゃん怖がっててねぇ...近寄られた日には必ず人の布団に潜り込んでくるまでは良いとして...うなされて泣くんだよねぇ。
おかげでこっちがすっかり寝不足になるんで」

「砂ちゃんって...例の脳みそ部長ですか?」
アニーが聞くのに苦笑してうなづく。

「でも...ヘラヘラしててそんなに怖そうに見えないけど?」
と、今度はホップがちらっと砂田に目をやって口を開いた。

「ああ、別に普通の人間には怖くないよ?」
「んじゃ、何が怖いん?」
ホップの言葉にユリは肩をすくめる。

「砂ちゃん、なずなのストーカーだから。
科学部のトップがさストーカーってまぢやばいよ?
もうね、なんつーか、レッドムーンの魔導生物よりよっぽどやばいって感じ?」


げっ...と5人全員がつぶやいた。

「姫にストーカーなんて...外道ですねっ!
そんな不埒な輩はアームスでボコボコにしてやった方がいいですよっ!」

怒りに震えるアニーに、ユリは片手を軽く頭にやって言う。

「えとね~...残念ながらなずなのアームスは一切の攻撃機能ないんで。
そういう意味ではそんじょそこらの普通のブレインのお姉ちゃん達より弱いんよ」

「ああ...そういえばそんな話でしたね...」
車の中でのホップの言葉を思い出すアニー。

「ん。ゆえにね、砂ちゃん帰る明日までは逃げ回ってると思うよ?」

「こんな夜に女性が一人なんて...それはそれで危ないじゃないですかっ。
僕が責任持ってお守りしますから、探してきますっ!」
止めるまもなく、アニーが駆け出していく。

「あ~あ...行っちゃった。」
その後ろ姿を見送ってユリは肩をすくめた。


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