「あ、レインさんまでどうしたんです~?」
にこりとお辞儀をするユキナに、二人はブンブン手を振った。
「あ~、ユキちゃん!見てみて、完成したんだ~♪」
と、はしゃぐ妙香。
彼女がいるのはバラで囲まれた空間。
乙女ジャーナル編集長エリザの指示のもと、アントーニョとアーサーのカップルを成立させるべく、アーサーがその気になりやすいであろう環境をと、人のあまり来ない中庭の一角にバラに囲まれた一帯を作るため、3m四方に芝生を植え、その周りを薔薇で囲み、中には小さな二人掛けのベンチを置いたという、例のアレである。
「うあ~。できたんですねぇ…。綺麗」
入り口であるバラのアーチをくぐってほわほわと笑みを浮かべるユキナの声に
「え?何が出来たの?…うあ~~すご~い!」
と、開いたポーチの口からフェリシアーノが顔を出した。
「そうでしょっ自信作……ってっ?!!!ええぇぇ?!!!!」
自慢しかけた妙香の声は驚きの叫びに変わった。
「うあ…これ…本物?」
と、同席していたレインがポーチを覗きこむと、
「本物だっ!ばかぁ!!」
と、そこからもう一つ、金色の頭がぴょこっとのぞいた。
「す、すみませんっ!!」
レインが頭からポコポコと湯気を出すアーサーに思わず謝罪すると、隣でフェリシアーノが
「ううん、いいよぉ。ビックリさせてゴメンネ~」
と笑顔でフルフル首を横にふる。
「天使ktkr…」
つぶやくレイン。
とりあえずいつか二人がここで寛ぐようになった時に覗けるようにと小型カメラを仕込む作業が終わったあとで良かった…と、心のなかで安堵する。
そこで
「…バラだ……」
と、直前まで頭から湯気を出していた事も忘れて、キラキラした目で外を見上げるアーサーに
「もちっと近くで見ますか?」
と、レインが手を差し出すと、うんうんとうなづいて、ぴょこんと手の平に乗る。
そのまま手の上のアーサーを落とさないようにソッとバラの側へと手を近づけると、アーサーは
「バラの花弁、でけぇ~!」
と、その花弁にスリスリと頬を擦り寄せた。
(うあ~うあ~うあぁぁ~~~!!このままこの子抱えて失踪しちゃっていいかなっ?!)
と、レインがまたそんな事を思いながらそれに見とれている横では、フェリシアーノが妙香に事情を説明している。
「えっと…要は食堂までアントーニョさんに見つからないように連れて行け…でいいのかな?」
「…えっと…たぶん?」
元々深く考える質ではないフェリシアーノは自分でもよくわかってない。
確認するようにアーサーに視線をやると、嬉しそうにバラの花弁にじゃれついていたアーサーは
「とりあえずアイラのプティフール確保したあと、まだその辺にいるようならイヴィルを俺とフェリで片付ける。いないようならミクに大まかな場所を探させて、そこまでの移動も頼む。」
と、名残惜しそうにバラから離れた。
こうして妙香とレインにチビ天使組を託したユキナは積もり積もった仕事に戻り、天使組の入ったポーチを手にした妙香とレインは食堂へ急ぐ。
レインはその道々ミクと連絡を取り、イヴィルと…そしてアントーニョの居場所について尋ねながら進んだ。
4人が食堂についた時にはまだアントーニョがそこで待ち構えていた。
「う~…俺のケーキ……じゃなかったっ。イヴィルが逃げちまう。」
一瞬こぼれ出た本音を慌てて否定し、アーサーは太めの眉を寄せる。
「立ち去る気配…ありませんねぇ」
妙香も片手を頬に当ててため息をつく。
「仕方ねえっ!」
やがて痺れを切らしたようにアーサーが声をあげた。
「行けっ!レイン!!」
と、ピシーっとアントーニョの方をさして命じるアーサー。
「はあぁ??私ですか??」
と、指名されたレインはぽか~んと呆けて自分を指差す。
「そうだっ!あいつこの前お前に頭上がらないような事言ってただろっ。サボる気満々だったアイツがブレイン本部に出頭したのもお前が言ったからだし…」
アーサーが例の襲撃の日の事を思い出して言うのに、レインはちょっと困ったように眉尻をさげる。
確かに最近アントーニョから部屋に新型TVを設置してくれとか、諸々頼まれてそれを他より優先的にやっていたためにアントーニョの覚えはめでたいほうではあるが…さて、ここから引き離すとなると何か理由がいるだろう。
それでもキラキラと天使に期待の眼差しを送られたら否とはいえない。
レインは仕方なく
「やってみます…」
と、食堂へ一歩踏み出した。
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