ちびちびパニック後編2_青い大地の果てにあるもの番外

「不審な影ねぇ…大きさは?お二人くらい?」
ミクはひと通り騒いで落ち着いたのか、真剣な眼でキーボードに指を滑らせる。
ディスプレイにはいくつもの画面が開いては消え、やがてピタっと一つの画面で止まった。

「…これ……かなぁ?」
と指し示すのは、食堂の映像。

そこではアイラがご機嫌で試作品のプティフールを作っていて、甘いものに目がないアーサーはゴクリとつばを飲み込んだ。

しかし…悲劇は起きた。

アイラが他のプティフールに背を向け、一つのプティフールに細かな細工を施している後ろで、ササっと現れた二足歩行の黒い影。
頭に二本、先に丸い球体のような物がついた角があるその不思議生物は、小さな両手を広げて、サラサラっと手から粉のようなモノを噴出してプティフールにかけた。

「うあぁぁ~~!!!」
と頭を抱えて絶叫するアーサー。

「お、俺のケーキっ!!!羽子っ!!アイラに電話かけろっ!!」
「はいっ!あいつを捕まえるんですねっ?!」
「違うっ!相手は小さくてもイヴィルだから、それはアイラには無理っ!何かあってケーキ作れなくなったらどうするんだっ!!それより今作っている1個だけでも死守させるんだっ!!」

携帯の短縮を押した羽子は、その言葉にじ~っとアーサーを呆れた目で見るが、アーサーは羽子の手にした携帯までパタパタ小さい羽で飛んでいくと、電話に出たアイラにプティフールの死守を命じる。

「今からすぐ行くからっ!絶対にその一つは死守だっ!!」
『はいっ!了解ですっ!』

ディスプレイの向こうでアイラが細工の済んだ唯一無事なプティフールを厳重に小箱にしまい、敬礼する。

「…というわけで…ミク、あいつをずっとカメラで追って場所を教えてくれ。俺達が追うから」
「らじゃっ」

「じゃ、羽子、食堂へ急ぐぞっ!」
パタパタと小さな羽を忙しく動かしながらアーサーが命じると、羽子は、どうぞ、と、ポーチを広げ、二人を中にうながした。




こうしてチビ天使組を連れて羽子が出ていった数分後……

バタン!!といきなり乱暴に開くオペレータ室のドア。

「ミクちゃん、羽ちゃんどこや?!教えたってっ!!」
と息を切らして入ってきたのはアントーニョ。

必死の形相に驚くものの、ミクは事情を知らない。
当たり前に
「今食中毒の元をまき散らしてる小型イヴィルを退治するためアーサーさんとフェリシアーノさんを連れて食堂へ向かいましたが…」
と答えた。

その答えを聞くとアントーニョは
「おおきにっ!!」
と、またすごい勢いでドアを閉めて疾走する。


「…どうしたんだろ?連絡…入れといた方がいいのかな?」
首をかしげながらも即羽子にその旨を電話で伝えるミク。

「まじぃぃぃ~?!!!!」

死ぬっ!絶対に殺されるっ!!!

食堂へ向かう廊下で連絡をもらった羽子は頭を抱えた。

「と…とりあえず…どうしようか…」

こうしている間にも攻撃特化型ジャスティスの特殊能力を無駄に発揮したアントーニョが追いついてくるかもしれない。

「あ~、羽子さん、お暇なら掃除手伝いません?」
焦る羽子に声をかけたのはお掃除係のユキナ。
こちらも乙女ジャーナルつながりである。

「ユキちゃん、良い所へっ!!!!」

羽子はその手に天使組の入ったポーチを押し付け、
「これっ!とりあえず妙香ちゃんに届けてっ!!誰にも秘密で、絶対に揺らさないようにねっ!」
と言うと、返事を待たずに食堂とは反対方向へと疾走した。

「ちょ、何?何なんです??」
戸惑いながらユキナが口を開いた時にはもう羽子ははるか彼方へ消えていた。

「もうっ…それでなくてもこの前の襲撃であちこちボロボロで忙しいのになぁ…」
と、口をとがらせるユキナ。

それでも先輩の頼みとあらば…と、庭師の妙香がいるであろう中庭へと足を向けかけた時、すごい勢いで疾走してくるアントーニョとかち合う。

「ユキちゃんっ!!羽ちゃん見ぃひんかった?!!」
普段ひょうひょうとしたアントーニョが切羽詰まった様子で聞いてくるのにユキナは少し戸惑うが、とりあえず居場所を教えるなとは言われてないので、
「えっと、あちらの方に疾走していかれましたが?」
と、羽子が消えた方を指し示すと、
「おおきにっ!!」
と、アントーニョはまたそちらに向かって疾走していった。

それを呆然と見送るユキナ。

「なんなんだろ?あれ?…もしかして…羽子さんアントーニョさんから逃げてたり?…ていうか…これが原因?」

チラリと羽子から預けられたポーチに目を落とすユキナ。

「…中身…見るなとは言われてないよね……。うん…。ちゃんと妙香さんには渡すよ?」
と、誰にともなく言い訳をして、ユキナはそ~っとポーチのファスナーを開けた。




「うあぁぁ~~」
ユキナがポーチの中を覗きこむと、ハムスターよろしくつぶらな4つの瞳が彼女を見上げる。

「どうしたんですか?お二人とも…。なんだか可愛らしい大きさになられて…」
「えへへ、ユキちゃんも可愛いよ~。」
「ありがとうございます///」

ほわほわと笑いながらユキナと会話を交わすフェリシアーノを頬を、アーサーは
「それどころじゃねえだろっ」
と、びよ~んと引っ張る。

「痛いっ!痛いよ、アーサーっ」
と涙目なフェリシアーノにお前とりあえず黙っとけっと言った後、アーサーはユキナを見上げ
「とにかく早急にここを離れて妙香の所に運んでくれっ!」
と要求した。

そして道々事情を話す。

「なるほどねぇ…。それで部屋にいらっしゃる方が少なかったんですねぇ…」

手の中のポーチに話しかけながらテクテクと歩くユキナ。
端から見るとちょっと危ない光景だが、幸い食中毒騒ぎで誰も気にしてない。

「うんうん。なんだかね、兄ちゃんいつの間にかギルと仲良くなってたみたいで…食べさせようと思って作ってたご馳走ダメにされて落ち込んじゃってさ…」

「うあ、そうだったんですか。それはそれは…。ていうか…ロヴィーノさんとギルベルトさんの間に何があったんでしょうね?」

「う~ん…この前の襲撃の辺りまでは接点ほとんどなかったと思うんだけど…。そう言えばあの翌日あたりかなぁ…バーに行くって言ってフラっとブレイン本部出ていったっきり翌日の夕方まで姿みえなかった時があったなぁ…。あの時に何かあったのかなぁ?」

「そうですか~。今度それとなく聞いて教えて下さいよ~」

「うん、教えてくれるかわかんないけど、聞いておくね~。」

和やかにまたおしゃべりを始める二人の様子に、アーサーは、

「フェリ、こいつと仲良いのか?」
と、コソッとフェリシアーノの服の裾をひっぱる。

「うんっ。俺みんなと仲良しだけど、ユキちゃんにはルートの部屋の様子とかよく聞くし…」
とそれに答えてうなづくフェリシアーノ。

それって…個人情報じゃ?と思うものの、アーサーは空気を読んで聞かないふりをした。





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