宴の前に…
「タマめっちゃかわええ~~!!!!」
「どこがだ~っ!!!!」
桜…もとい乙女ジャーナルの乙女達に着せられた真っ白なふわりとしたチュニック。
レースに縁取られた襟元には金の刺繍。
右の胸元には赤いバラ。
そこから薄いレースのドレープが広がり、左手首の細い金のブレスレットの小さなエメラルドが組み込まれた繊細な金の蝶へと伸びている。
チュニックから出た細い足はやはり真っ白なレギンスに包まれていて、足首には手首とお揃いのアンクレット。
金色の髪の下の白い肌を薔薇色に染め、フルフル身を震わせている様子はとても可愛らしい。
「他人ごとだと思いやがってっ!俺だってそっちの方が良かったっ!」
と、上目遣いに睨んでも可愛らしいだけなのだが…と、思いつつ、
「なに?親分そんなにかっこええ?」
と、アントーニョはへにゃりと笑った。
「誰がんなこと言ったんだっ!!ただ同じ桜経由の服なのにずりいって言ってんだっ!!」
そう、アントーニョの服も結局ティナから医療班の女性達にお願いして作ってもらい、最終的に桜経由で渡されたものだ。
こちらはデザイン的にはシンプルだが黒地に金の刺繍が入っている。
左肩にはアーサーとお揃いの真っ赤なバラの飾り。
こちらもそこから流れるように黒いドレープが広がり、右手首の金のブレスレットのペリドットが組み込まれた蝶へと伸びている。
もちろんピッタリとした黒い布地に覆われた足には同じデザインのアンクレットが光っている事は言うまでもない。
一見対極の色、対極のデザインながら、ポイントポイントが対になった形の衣装。
アーサーはぷくぅ~っと膨れているが、アントーニョはごきげんだ。
「うわぁ~。アーサーとアントーニョ兄ちゃんの方も素敵だねぇ♪」
と、こちらはご機嫌で白い衣装をまとったフェリシアーノと少し困った顔でそれに付き添うように立つルートヴィヒ。
フェリシアーノの衣装はほぼアーサーと同じだが、胸元の薔薇の代わりに中央にデージーの留め具のついた真っ白なケープ。
ルートヴィヒの方は黒い軍服のようなデザインで、胸元にまるで勲章のようにフェリシアーノとお揃いのデージーの花がついている。
「俺はどう?似合うっ?!」
じゃ~ん!と嬉しそうに手を広げてクルリと回るフェリシアーノに、もう笑うしかない。
「この服自体も可愛いけどさっルートとペアって俺すごく嬉しいよっ♪」
と言ってルートヴィヒに抱きつくフェリシアーノの可愛らしい様子に、
「なんか…憎めないやつだよな、フェリって」
と、アーサーも苦笑した。
「ま、ええんやない?これから基本的にペアで動く相方を衣装で紹介みたいな感じで。」
と、アーサーの機嫌が少し直ってきたところでアントーニョがそう添えると、アーサーは口を尖らせながらも
「まあ…仕方ないな…」
と、それに同意した。
「じゃ、会場まで一緒に行こうよ~♪」
と、ルートの腕に手をかけたフェリシアーノがもう片方の手でアーサーの手を取ると、アントーニョは
「ほな行こか~」
と、手をかけやすいように少し自分の肘を曲げて、アーサーをうながす。
「まあ…大勢で行った方が恥ずかしくないよな…」
と言い訳のように言ってアーサーがアントーニョの腕に手を添えると、ちょうど白い二人を黒い二人で挟む形で、4人揃って更衣室を出ていった。
「ほら…おかしくないよ?
アントーニョさんの言うとおり、仕事の相方を衣装で紹介するようなものだってっ!
それでなくても今までブレインとフリーダムって仲良いとは言いがたかったんだし、これからの士気の高揚のためにも順調に交流深めてるとこアピールしないと。
そんな風にあくまで拒む方がわけわかんない。」
パタン!とドアが閉まったところで、奥の部屋のドアが開いて、むすぅっとブレインの制服を着ている青年が口を尖らせている。
「で…でも…」
「でもじゃないよ。
まあ…フリーダム本部長は普通に友好関係を築けている事をアピールして、最近落ち着かない本部内に安心感与えるためって言ったら、普通に着てくれたみたいだけど?」
そういう青年に少し恨みがましい視線を送りつつも、
「わかったよっ!着りゃあいいんだろっ、こんちくしょうめっ!」
と、ロヴィーノは乙女達が用意した衣装を手に取った。
そこにトントンとノックの音。
「どうぞ。」
と応えると開かれたドアからは、光沢のあるグレーの衣装に身を包んだギルベルトが顔をのぞかせる。
「あ~、ロヴィ。別にお前まで着ねえでいいんだぞ?どうせエリザのお遊びなんだから。
ごめんな。あとでお前巻き込むなってあいつに注意しとくから。」
マジごめんな。俺やトーニョは幼馴染だからもう弄られんのも慣れてっけど、普通男同士で…しかも俺とペアルックとか引くよな…と、頭を掻くギルベルトに、ロヴィーノは慌てて首をぶんぶん横に振った。
「い、いやっ。俺が考えすぎなんだっ。気を使わせてワリイッ!
確かにあれだよなっ。ブレインとフリーダムが協力体制ちゃんと出来てるってアピールは大事だよなっ」
と、慌ててロヴィーノが言うと、ギルベルトは
「ま、こんな小細工しなくても俺らダチだしなっ!ホント無理しねえでいいぞ?」
と言いつつ、ケセセっと特徴的な笑い声をあげた。
そこで無言になるロヴィーノ。
脳裏ではギルベルトの”ダチ"という言葉がクルクル回っていた。
そうか…友達…なのか。
齢23にして初めての友達。
親兄弟以外で損得勘定なしに一緒にいてくれる相手。
少しの気恥ずかしさと多くの嬉しい気持ちがこみあげてきて、どうして良いかわからずにただただうつむく。
「……着る…」
「へ?」
「ダチだしなっ!」
と、いきなり顔をあげると、せっせと着替え始めた。
「ギルロヴィ萌えぇ~。ロヴィーノ副本部長可愛すぎて死にそうっ!」
「いやいや、ギルベルト本部長が正統派イケメン、HSKすぎて、もう笑える。
エリザさんといるとあんなにお笑い要員、残念なイケメンなのにっ!」
こちら毎度おなじみ監視カメラ室。
ただいま一番大きなディスプレイに映し出されているのは男子更衣室なわけで…。
さすがに男子更衣室に押しかけるわけにも行かない乙女達がディスプレイをガン見している。
「…ていうか、マリアンちゃんの彼氏のライト君…だっけ?良い仕事してるっ!
やっぱり男の協力者って大きいよねっ!」
「ありがとうございます♪なにせ私が腐女子になったのは、腐男子な彼の影響ですし…」
カウンセラーつながりで藍が知り合ってジャーナルの編集員に加わった腐女子、マリアンは、腐男子の彼氏に影響されて腐に走ったという変わり種だ。
その腐男子の彼氏はブレイン職員で、同世代ということもあって疑われる事もなくロヴィーノと接触を持っている協力者だ。
そんな新人も加わって、乙女ジャーナルの面々は今日も元気に活動中だ。
「もうさ、いいから結婚しろって感じだよねっ!つか、くっつけようっ!」
「…眠り薬と痺れ薬…どっちがいいです?」
「いやいや、藍ちゃん、何故そっち方向に行くかな?」
「あ~でもさ、ギルベルト本部長、変なところで真面目だからさ、一服持って服剥いで同じベッドに寝かせておいたら、責任取るとか言いそうじゃない?」
「あ~、それいい~!!」
よもや乙女達がそんな怖い会話を繰り広げているとは知らず、他の二組と同様にペア服に着替えたロヴィーノを連れて、仲良く会場へ向かうギルベルト。
「私達もそろそろ行かないとっ!」
と、仕事で現場を離れられない面々以外の乙女達も会場へと向かった。
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