初めて身体を繋げたあの日から、二人は少しずつ少しずつ夫婦になっていき、最終的にはお互いがお互いにとってなくてはならない存在になる。
それは二人が一緒になって数年の時がたった頃の事だ。
スペインは新大陸に向かう事になったが人間の中にイングランドを置いて行くなどという事は心配で出来ず、当然のように遠い旅路にイングランドを伴っていく事にした。
そこでの出来事だ。
広大な大陸。
綺麗な草原が延々と広がる様は、自然の中で育ったイングランドをおおいに喜ばせたが、滞在して2カ月ほどたった頃、イングランドは突然体調を崩した。
スペインは基本的に人間を…特に愛妻の事に対しては人間を心から信用はしていなかったので、現地に家をたて、そこに体調を崩したイングランドを住まわせた。
絶え間ない吐き気と倦怠感。
そして何故かそれまではいくら食べても太らなかったイングランドが一部だけ…正確には腹にだけ肉がついてきた。
そこである可能性が脳裏をよぎるが、まさかあるわけがない…と、スペインはその可能性を否定する。
しかしそれから数カ月後、否定したはずのそれが事実であった事をスペインは思い知る事になった。
そう…イングランドが子どもを産んだ。
明るい光色の髪とこの新大陸の空のような綺麗な青い瞳の男の子。
まるでこの大地を体現したようなその子どもは容姿はイギリスに近かったが、随分と大きく力が強く、そしてよく笑う、そんなイギリスに言わせるとスペインに似た性質をも同時に持ち合わせていた。
まさか…まさか、国同士で…しかも男性体の国同士で子どもが?
と驚きはしたものの、それは嬉しい驚きで、それから1年くらいは幸せなときを過ごしたのだが、いつまでも新大陸にいるわけにはいかない。
帰国をする事になって、スペインは悩んだ。
何故子どもができたのかはわからない。
国は絶対に子どもを作る事はできない…そう言われていたし、スペイン自身もそう思ってきたのだが、考えてみればイングランドは確かにブリタニアという母親がいるわけであるし、イタリア兄弟にしてもローマと言う祖父がいる。
ということは、実は国でも特定の条件下で子どもが生まれる事もあるのだろう。
それは良い。
ただその条件というものがわからない以上、人間に曲解される可能性がある。
少なくとも子どもを産んだ事がある国体と言う事で、イングランドが不老不死の跡取りを作りたいなどと考えた権力者達に狙われる可能性が大いにでてくるのではないだろうか…。
その可能性を考えれば子どもを産んだ事は秘密にしておかなければならないし、子ども自身もまだ判断のつかない歳の丈夫な存在として時の権力者に利用される可能性もある。
やっとできた家族…。
それを明かせない事情…。
人の多いヨーロッパは危険だ……。
――この子は新大陸に置いて行こう。ヨーロッパに連れていくのは危険や。
イングランドの身の安全という事を口にすればイングランドは絶対に頷かない。
しかしイングランドが受けた扱いと後ろ盾のない赤ん坊が利用されないはずはないと言う事を重ねて話せば、イングランドは号泣しながらも置いて行く事を了承した。
ただし一つだけ…
――いつかこの地にも欧州の手が伸びた時、どちらかの国がこの子に良くない目的で手を出そうとしたら絶対にもう片方がこの子を守る事。
もしそれがよしんば…お互いと対立する事になったとしても……という条件付きで…。
スペインとてそれには異存はない。
イギリスにとっては腹を痛めて産んだ子かもしれないが、スペインにとってだって可愛い可愛い念願かなって産まれた自分の子だ。
こうして現地の人里離れた場所にぽつねんと住んでいた夫婦に子どもを託し、二人は欧州に戻り、それからすぐくらいにイングランドの女王が亡くなった。
その後は新しい女王が即位し、悪化した両国の関係のためイングランドは自国に戻る事に…。
それでも二人は夫婦だ。
「まあ…人間は早う死ぬし、王が変われば国も変わるさかいな、それまではこっそり会うたらええねん。
せやけど自分可愛すぎやし、用心してや?
国に戻ったらなるべくゴツイ服着て体型隠して、そうやな…顔がなるべく隠れるようにゴツイ帽子被って眼帯でもしとき。
親分以外に身を許したらあかんで。
自分の嫁に手なんかだされたら親分1人でもそいつはもちろん、そいつの一族郎党惨殺しに英国に渡らなあかんくなるしな」
帰りたくないと泣くイングランドに、このまま敵国になったこの国にいると危険だからと帰国を促しながらそう言ったスペインの言葉の通り、行きの華奢で可愛らしい花嫁衣装とは真逆の仰々しくも禍々しい海賊のような衣装に眼帯姿で帰国したイングランドは、人前ではそれで通し続けたらしい。
スペイン船を襲うイングランドの海賊を迎え撃つために秘かに船に送りこまれたスペインが、同じく海賊船に送りこまれたイングランドを目にした時には、未だに続いていたらしいその冗談のような格好に噴出しそうになるのを堪えるのが大変だった。
最初は見つからないように頑張ってこっそり、そのうち国体は国体同士でさしで決着をと堂々と、二人きりで船内で密会を続ける事数年。
イングランドのその変装のために、よもや未だに二人が睦あっているなどとは夢にも思わないらしく、各々の部下達は外で必死に戦っているわけである。
「…ああ…早くイングラテラをゆっくりベッドで抱ける日が来て欲しいわぁ…」
よいしょと立ち上がるとスペインはそう言って、イングランドの手からカットラスを取りあげると、適度に自分の服を切っていく。
そしてイングランドの上着も一度脱がせて自分のハルバードで適度に傷をつけ、返してやる。
「…その日まではこの格好か……」
とため息をつくイングランド。
「ん。でもあれやな。いつかこんな風にこっそりスリリングな逢瀬をしてた事も懐かしくなる日がくるやろ。
そんな日が来るまでは頑張りや、親分の大事なノービア」
そう言って抱きしめてキスをすると、「ほな、今回は親分が負ける回な」と、笑って広間の窓から外へと撤退して行った。
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