紅い鎖_10

忍ぶ海賊達


「ちょ、トドメ刺してくるさかい、水ささんといてやっ?!
親分は太陽の沈まぬ情熱の国スペインやっ!まさか負けるなんて思わんやろっ?!!」

銀色に輝くハルバード。
太陽を背にそれを担いでスペインは自国の兵士に不敵な笑みを浮かべる。

もちろん長い時を戦場に身を置き続けた百戦錬磨の祖国のその言葉を兵士達が疑うことはない。

「はいっ!ほな、俺らが雑魚はきっちり抑えときますさかい、祖国様はあの卑怯モンにきっちり制裁を加えたって下さいっ!」
と、言われる前にイングランドの海賊達の前に立ちはだかった。


「…っていうことやで?頭同志の一騎打ちや。
邪魔が入らんとこでやろうや?」

ニヤリと微笑む先には仰々しいほどの海賊風の衣装に身を包んだ眼帯の男。

「おうっ!まあ帝国様が無様に負ける様を部下に見せても可哀想だしなっ。
部下は部下で遊んでおいてもらうとして、広間で伸してやるよっ」

トントンと掴んだカットラスの柄で軽く肩を叩きながら言う相手に

「お~、その言葉そっくりそのまま返すわ。
ま、とりあえず移動やな」

と、ギラリと相手を焼き尽くすような目でスペインが広間のある船室内へのドアを顎でしゃくった時点で、部下同士の戦闘は始まった。

そして…船内に消えていく国体二人…。




パタン…とドアを閉めて真っ直ぐ広間へ行くと、
「ちょお危ないからどいといてな」
と、イングランドを引き寄せてキス。

それから部屋の端に行かせると、
「ほな、工作しとくわ」
と、ブン!!とハルバードを振り回して部屋中を走り回ると床に壁にと武器の跡をつけていく。

そうして適度に部屋を戦闘があったような状態にすると、
「イングラテラ~!!半月ぶりやねっ!!!」
と、ハルバードを放り出して愛妻に飛びついた。

「ちょっ…エスパーニャっ…待ったっ!」
「待てへんわっ!半月もイングラテラに触れてへんねんで?!」

そうしてしっかりと抱き合って何度も口づけを交わす。
互いが互いを補充し合うように何度も何度も…
そして、はぁ……と、吐き出す息。


「…抱いてはくれないんだな……」
悲しそうに伏し目がちに言うイングランドの目元にキスを落とすと、少し滲みかけた涙で塩辛い。

「堪忍なぁ…」
と、スペインは言う。

以前は人間のせいでなぜ自分が…と思っていたが、大切な花嫁が悲しんでいるのだから責任転嫁もしたくなかったし、何より他にあたることも愚痴る事もできないのだから、自分にぐらい恨み事を言わせてやりたい。

「もうちょい…せめて戦いの当事国やなくなったらな…。
いまは…万が一にでも出来てもうたらまずいやん」
そういうスペインの言葉に、イギリスは口を尖らせる。

「1人でも…ちゃんと産んで育てるぞ…」
「あかん。そんな事あるて知ったら、不老不死の王とかできるんちゃう?って人間どもに自分何されるかわからんやん。
分厚い服着て大きゅう見せてるけど、脱いだらこんな細っこくてあの頃のまんまやし…」

さらりとスペインはその細い肩をそっと撫でながら口づけた。


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