紅い鎖_9

外見年齢的には公称では14歳と聞いていたが、イングランドはその国土が小さいからか幼く見える。
こうして見れば下手をすれば11,2歳に見えなくもない。

もし身体の成長が公称の外見年齢ではなく見た目のままなら、そういう事もありうるだろう。

更に言うなら、自分と違って人間の中ではなく森で暮らしているイングランドがその手の知識を持っていないと言う可能性も十分ある。

そうだとすれば、いきなりこんなことをされれば怖いと感じるのももっともだ。


そう思ってみれば、困った事にスペインの少しばかり褒められたものではないかもしれない性癖が頭をもたげて来る。

それはおそらく過剰な独占欲から来るものだろう。

スペインは何も知らない相手に一から自分が色々知識を教え込むのが大好きだ。
まっさらな処に自分の教えが浸透していく…そう考えると胸が躍るものがある。

この子が本当にまっさらであるなら…一生自分の伴侶として慈しみ守ってやっていくこともやぶさかではない…。

スペインはいったん俯いて思わず緩みそうになる頬を引き締め、それから理性で穏やかな笑みを浮かべて顔をあげる。

「性交っちゅうのはな、夫婦が子ども作るために身体を重ねる行為のことを言うんや。
イングラテラはまだした事ないん?」

優しく言ったつもりだ。
そのつもりだったのだが、その途端、イングランドはまた怯えたように震え始めた。

何故だ…?
「イングラテラ…?」
と、その顔を覗き込むと、涙でいっぱいの淡いグリーンの瞳が揺れる。

「親分、なんや怖がらせるような事聞いてもうた?
色々無理させとうないから、なるべくイングラテラの事知っておきたいだけなんやけど…」
そう聞きながら涙で冷たくなったイングランドの頬に自分の頬を擦り寄せると、イングランドはおそるおそるスペインのシャツの胸元をつかんだ。
そして小さな小さな声でささやくように言う。

…見せられた事は…ある……
声音からするとそれはイングランドにとっては恐ろしい体験だったように聞こえる。


どこぞで露出趣味の変態にでもあったのだろうか…。

もしかして…あいつか?

人形のように綺麗な顔をした変態の旧友が脳裏に浮かんで、スペインは秘かに殺意を抱いたが、違うようだ。

イングランドは少し間を置いて、
……ここに来る船の中で……
と言うので、さすがに某変態ではないだろうと、スペインは結論付ける。

そうしてさらにやんわりと詳細を話してくれるように促して、全てを知ると、本当に…本当に、はらわたが煮えくり返った。

目の前にいるスペインがすっかり手の中に囲い込む事に決めてしまった愛らしい子どもがまさにその国の化身なのだという事が信じられないほど、かの国はどうしようもないと思う。

あのスペインが可愛がっていた幼い王女を不幸にしただけでは飽き足らず、今またこんなに可愛らしいスペインの愛し子にとんでもないトラウマを植え付けるとは、この子に影響がないなら、攻め滅ぼしてやりたいくらいだ。

「可哀想になぁ…とんでもなく歪んだ知識植えつけられてもうて……」
と、まずそれが間違った認識である事を教える事から始める。

全てにおいてまっさらが一番良かったが、時間は元には戻せない。
まだ物理的には全く手を出されていないだけ良しとするべきだろう。
知識は上書きできる。

ということで他から得た知識を消さなければ…
と、とりあえずそれは間違った認識で、これから自分が言う認識が正しいのだとスペインは主張した。

「…間違った……?」
半信半疑でコテンと小首をかしげる涙目のイングランドは本当に可愛らしい。

真っ白なドレス。ふわふわと繊細なベール。
幸いにして誰にも触れられた事のない、実際には何も知らない少年を自分の色に染めていく…そう思えば全ての面倒事も楽しい作業だ。

「おん。まず基本的にな、これは本来は生物的には子どもを作る作業や。
ようは自分の家族、家庭を作る作業やから、相手を傷つけたりしたらあかんやろ?
一緒に家庭を作っていく大事な大事なパートナーなんやから…」

「家族……」

スペインの言葉にイングランドの表情が和らぐ。
家族、家庭に対する憧れ…
これはスペインにも経験がある…というか、今でも持っている。

長い時を生きる国だからこそ、親しくなっても短命ゆえにすぐ死して消えてしまう人間達を見送りながら、1人きりの寂しさに打ち震える日々を過ごしているのだ。
そんなスペインと同じ飢えを持っているようなイングランドに、スペインはさらに強く惹かれ始めた。

「そう、家族や。
本当は愛情を持つもん同士がする行為なんやで?
イングラテラが見せられたのは、単なる暴力で、結婚相手にする行為とは全然違う。
親分はイングラテラと親しく近くなりたいんや。
せやから酷い事はせえへんよ。
信じたって?」

と、まあるく大きな瞳を覗き込めば、真っ白な頬がかすかに薄桃色に色づいた。
もう一息だ…とスペインはその頬を両手で包み込んでたたみかける。

「親分と…家族になったって?」
と、顔を近づけ、小さな鼻に自分の鼻が触れるぎりぎりくらいの距離でいったん止まり、

――キス…しても、ええ?
と吐息交じりにささやけば、イングランドは少し戸惑ったあと、それでもコクンと頷いた。
チェックメイトだ…。

こうしてなし崩し的に…それでもこの上なく優しく丁寧に愛を交わし終わって落ちついた時には、もう空が白んでいた。

イングランドは行為が終わった途端あっさり意識を手放してしまい、スペインもトラウマを植えつけないようにとこの上なく気を使ったため一気に緊張が解けたのもあってどっと疲れが押し寄せてひどく眠い。

このまま眠ってしまいたい気もするが、とりあえず湯浴みをしてイングランドも綺麗にしてやらなければ…
疲れきっているものの怯えた様子もなく腕の中で安らかに眠るあどけない花嫁を見て、最後の理性がそう告げる。

そしてしばらくそのままぼ~っとイングランドを眺めていたが、スペインは身を清めるため気合いを入れて起きあがると、花嫁を抱えあげた。





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