紅い鎖_5

売られた花嫁


花嫁の到着が知らされたのはそれから1週間ばかりの時が過ぎたある日の夕方だった。
丁度国政の事で王に相談を受けていたスペインは、予定より2日ほど早いイングランドからの船の到着を王の執務室で受けた。

「今港に着いたとこですが、どちらに案内しはります?」
と、暗に予定より早い到着で受け入れ準備が整っていない事に少し戸惑いを見せる使者に、
「うちの館に送ったって。
別に王族の婚姻やないし、俺らが一緒におればええだけやろ?」
と王が口を開く前にスペインがそう言う。

すると、王は少し面白そうに
「なんや、俺は顔見れへんの?」
と、にやにや笑うのが腹立たしい。
が、そこでむきになったら相手をさらに面白がらせるだけだ。

それがわかっているので、それに対して
「嫉妬深いんがスペインの男やろ?
自分の嫁さん抱いてみたい言う男に見せるアホおらへんわ。」
と、スペインが渋い顔をしてみせると、
「せやな、確かに。
まあ勃たへんようやったら言うたってな。
国王として責任持ったるから。」
と、笑い転げてそれを許可した。

こうして王城を早々に辞して、馬車を待つ間も惜しんでスペインは馬で自邸まで疾走する。
そして自邸に着くと、ひらりとマントを翻して馬を飛び降り、そのまま大股で邸内に入った。

「もう着いとるん?」
と言うスペインに、せっかちな主人に慣れたメイド頭もさすがに呆れ顔で
「王城とたいして距離が違わへん港から馬車で来はりますからなぁ。
ペガサスにでも引かせん限り、駿馬で戻られた祖国様と同じには着きはらへんと思いますわ。」
と、歩を止めない主人に小走りに駆け寄って、そのマントを受け取った。

そして
「ほな、俺は先に湯を浴びとくさかい、用意したって。」
と、スペインが命じるのに、恭しく礼をして下がっていく。

着いた早々と言うのもなんだと自分でも思わないでもないが、冗談交じりに言っているように見えても王は油断のならない男だ。
早急に手をつけて自分の嫁と言う既成事実を作っておかないと、本当に権力にまかせて取りあげて手を出しかねない。

結局国体で国民に敬われていると言っても、王がそうすると命じればそれを阻むのはスペインをしても容易ではない。
国体の嫁を理不尽にとなればさすがに止める者も多かろうが、手も出さずに置いていると同盟国との関係に関わると言われれば、おそらく周りにも納得されてしまうだろう。

とりあえず…納得をして来ているにしてもそうでないにしても、繋がるのが先だ。
フォローはあとで入れるしかない。

湯浴みを済ませて濡れた髪を乱暴に拭きながら、スペインは強めの葡萄酒を口に含む。
本当に飲みでもしないとやってられない。

人間の不始末で勝手に恨まれて連れてこられるイングランドの国体も不憫だとは思うが、勝手に婚姻を決められて、相手のために早急に関係を結ぶ事で相手に恨まれるであろう自分も十分可哀想だ。

むぅぅ~と思いながらも、それでも旧知のよしみ…もっと言うなら、一緒にいたことはないが、同じローマ帝国に保護された仲間のよしみ、仕方ないと、スペインは割り切れない思いを赤い液体と一緒に腹の中に流し込む。

そんな中で告げられた花嫁の到着。

「ええわ。もう寝室の方へ連れてきたって。」
と、どうせ恨まれるのだから全ての気遣いは後で…と言った事を、スペインはこののち少し後悔する事になる。



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