負けを認めるか30秒間立てないかで負けということでよろしいですね?」
「いいんだぞ!」
「ええで~」
「では…レディ~ゴーッ!!」
本田が手を下ろした瞬間、アントーニョに向かって突進して大剣を振り回すアルフレッドの目の前で、ストンと身を落としたアントーニョはそのままの勢いでいきなりアルフレッドの脛を思い切り蹴りあげた。
うあぁああ!!!
衝撃で剣を保てなくなって、アルフレッドが足を押さえてしゃがみこんだ一瞬に、アントーニョは今度は体勢の低くなったアルフレッドの頭…正確にはコメカミに拳を叩きつける。
――うあ…いきなり急所2箇所かよ。容赦ねえ。
小さくつぶやいて、それでも一応手加減はしているらしいアントーニョに安堵の息を吐き出すギルベルト。
――う~ん…場数の差だねぇ。
と、こちらは苦笑のフランシス。
当のアルフレッドは急所を思い切り突かれて脳震盪を起こしてそのまま倒れこんだ。
本田がカウントを取ること30秒。
当然アルフレッドが立ち上がる事はない。
勝敗が決したところで、フランシスがアルフレッドを助け起こした。
「……おれ…?」
「脳震盪起こしてたんだよ、お前さん。」
「俺、まだ戦えるんだぞっ!」
ガバっと起き上がるアルフレッドに、
「だぁめっ!30秒寝てたからお前の負け。」
と、フランシスは苦笑して軽くデコピンをする。
「でも…っ!!」
「負けは負けやで~。というわけで言う事きいてもらおか~」
そこでアントーニョがによによと近寄ってきて、アルフレッドを見下ろした。
「ヒーローやったら約束は守れるやんな?」
と面白そうに言うアントーニョにアルフレッドは悔しそうに唇を噛み締め、それでも
「なんでも言えばいいじゃないかっ!」
と言う。
「お前…これ以上追い詰めてやんなよ。」
と、さすがにそれにギルベルトが割って入るが、アントーニョは
「…って優しいお兄ちゃんが言うとるけど?どないする?
僕子どもやから堪忍したって~って泣きつくか?」
と、アルフレッドにさらに問いかけた。
「ちょ、お前そういう言い方…」
と、さすがにフランシスが少し怒った口調で身を乗り出したが、当のアルフレッドがそれを制した。
「いや、俺が言い出したことだから二言はないんだぞっ!何をすればいいんだい?」
そう言うアルフレッドにアントーニョは親指でフランシスを指さした。
「せっかくパートナーがメシ管理してくれとんのやから、それちゃんと好き嫌い言わんと食って、間食禁止な。」
――へ?
と、呆けるフランシスとギルベルトだが、言われたアルフレッドは、なんだよ、それっ!と声を荒げた。
「俺は子どもじゃないっ!子供扱いしないでちゃんとした条件だしてくれないかいっ?!」
と、結構本気でムッとするが、アントーニョは、
「そういうとこが子どもや言うねん。」
と、肩をすくめた。
そして少しアルフレッドの方に身を乗り出して視線を合わせると続ける。
「ええか?しゃあないから説明したるわ。
自分今なんで負けたと思う?」
「……え?…それは……」
戸惑うアルフレッドに、アントーニョは
「ちゃんとここ使わな」
と、自分の頭をトントンと軽く指で突いた。
「あんな、自分は単純に親分なぎ倒す事しか考えてへんかったやん。
で、それしか見えてへんかったから隙だらけで、急所突かれたわけや。
ここ、脛な。骨が近くにあるから攻撃受けたらめっちゃ痛いねん。」
と、アントーニョは自分の脛を指さした。
「で、痛さで動き止まったところでコメカミに攻撃うけてん。
ここも急所やで?強打されると意識失うんや。」
と、アントーニョはまた今度は自分のコメカミをゆびさす。
「…というわけで、自分が負けた理由は?」
「……急所…突かれたから。」
「せや。戦う時は自分の急所守ると同時に、相手の急所を突く、これが大事やねん。
で、それをするには経験とスピードがモノを言うんやけど、自分、はっきり言って体が重すぎや。
パワー落とさんためにある程度のウェイトは必要やけど、スピードない木偶の坊になったらあかん。
せやから、料理上手くて必要なカロリーや栄養ちゃんと考えられるフランのメシ食えるって事は、めっちゃ強くなるのに有利やねんで?
今は模擬試合やからええけど、そんなんで実戦行ったらめっちゃ足手まといの迷惑モンや。
子どもやないってのはそういうのキチンと考えて自己管理してから言い。」
「………わかったよ。」
目を潤ませながらもすんでのところで泣くのはこらえ、アルフレッドは立ち上がった。
「俺は絶対に強くなってみせるからっ!その時はアーサーもらうからっ!」
「いやいやいやいや、自分何言うてるん?!
親分勝ったら変なちょっかいかけへん言うたやん。」
「ああ、言ったよ。だから変なちょっかいじゃなくてキチンとした申し込みするから。
ああ…一応劇の相手役も約束だから諦めてあげるよ。リアルの相手役は諦めないけどね」
「こっんのぉぉおおお、クソガキがあぁあああ!!!!」
体育館に響く絶叫。
「すごいね…わがまま度KY度でトーニョに勝てる奴がいると思わなかったよ。」
「あ~、まああれだ、たまには振り回されてみやがれってとこだな」
それを横目に、悪友二人は肩をすくめて笑った。
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