天使な悪魔_8章_8

目覚め


「…と…にょ…泣くな……」
重い瞼を開き言葉をつむぐと声がひどくかすれる。
まるで全てが自分の身体ではないようにうまく動かない。

しかしその声は目の前の男には十分伝わったらしい。
思いつめたような固まったいた表情に感情が戻ってくる。

「アーティーっ!気ぃついたん?!
良かった…ほんま良かった…」

いつもの泣きそうな顔ではない…アントーニョは完全に泣いていた。
本当に何かが決壊してしまったように綺麗なエメラルドの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちている。

これは…もしかして…
「俺のために…泣いてるのか?」

不幸な生い立ちからのし上がってきた強い男のはずだ…。
どんな厳しい戦況でも決して諦めることなく前を向き、道を切り開いてきた……
その男が自分のためにこんなに身も世もなく泣いているのか…?
そんなことを考えているアーサーの不思議そうな視線に気づいたのだろう。
アントーニョは
「当たり前やん。」
と、少し心外そうに言った。

「親分にとってアーティーはホンマ唯一の大事なもんなんやで?
自分がおらへんようになったら俺の人生なんかなんも意味がない。
世界中と引き換えても自分だけはおらんとあかんねん。」

「はい、そこまでね。僕の方の話ちゃっちゃとすませちゃうから。
イチャつくのはあとでやってよ。」

身を乗り出すアントーニョをそんな言葉で遮ってイヴァンがギルベルトにアイコンタクトを送る。

「…積もる話はあとでゆっくりな。術後で気をつけないとなんねえこともあるだろうし、先に身体についての注意すませたほうが安心できんだろ?」

半ば無理やりと言って良いくらいな強引さでアーサーと引き剥がされて非常に不満気だったが、アントーニョは大人しく引き下がった。

GPSを埋め込むとか怪しい真似もするが、結局アーサーがもう死んでしまうという時にいつも救いの手を差し伸べてくるのはイヴァンだ。

下心があろうとなかろうと主治医という立場上、死なせない様にと心は砕いているのだろう。

「俺にとってホンマなくしたらあかん大事なモンなんてアーティーの他ないんやで?
それだけはいつも心にとめとってな。
すぐ隣におるから、なんかあったら即呼び?」

涙をぬぐっていつもの心配そうな目でチュッと額に唇を落とし、アントーニョは名残惜しそうに仕切りの向こうへと消えていった。


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