天使な悪魔_8章_7

溶ける意識


アーティー…いかんといて…置いてかんといて……

全てから開放されてふわふわと温かな中で漂っていた。
柔らかく暖かい空気にそのまま溶けてしまいそうな感覚。
ああ…そういうのもいいかもしれない…と思う。

手も足もすでに空気と同化して、そのまま柔らかな空気に溶け込もうとアーサーが目を軽く閉じたとき、子どものように泣く声がして、その声に意識がひきつけられた。

あいまいなこの場の空気にそぐわない、はっきりとした悲哀の色。
強い悲しみの意志に引きずられるように溶け込みかけた意識がまた形を作り、ゆるやかに空気を漂っていた視線がそちらに引き寄せられる。

泣くなよ…泣くな…。

いつも優しく自分を甘やかしていた相手が、いま己の心のうちを微塵も隠そうともせず悲しみに打ちひしがれて慟哭している図に、心がひどく痛んだ。

涙に濡れるその頬に手を伸ばそうとした瞬間、空気に同化しかけていた意識がはっきりと形を持つ。

強く望まれている…そんな強い意志にひっぱられるように、ふわふわと浮かんでいた意識が地上に引っぱり降ろされる…そんな感覚をアーサーは覚えた。




……ピッ……

直線を描いていた心電図がかすかに動いた。

「おっ!」
手を止めて顔をあげ、それを確認すると大きく安堵の息を吐き出すギルベルト。
その顔に浮かぶ笑みを見て、ニコニコ嬉しそうに微笑むイヴァンとトーリス。

やがて定期的な鼓動を刻み始める機械に、トーリスはホッとしたように片づけに従事し、ギルベルトはイヴァンの両肩に手を置いた。

「今回はダンケ。俺様としたことがやる前から諦めちまってた。
やっぱやってみねえとダメだよな。やる前から諦めてんなって感じだな、マジ。
俺様達、医者なんだから。」
珍しく少し目をうるませるギルベルトにイヴァンはニコニコ本当に嬉しそうに微笑む。

自分より一回り大きい友人の肩に手を置いたまま少しうつむき加減に言うギルベルトには、その表情が見えてないのが残念だ。
見えていればイヴァンの方こそがこの状況をどれだけ望んで動いたかがわかるのにと、トーリスは少し離れた所で片付けをしながら、そう思った。

「たぶんじきに意識が戻ると思うけど、主治医として言っておかないとな事あるから、先に僕と話させてよ。」

信用して?とそこでニコリと言われれば、ギルベルトはja(イエス)以外の選択はない。

アントーニョは不満そうな顔をしたが、
「俺様がGPSも取り出したし、何か変な影響与える事もしてねえ。
危害加える気があんなら、あのまま放っておくだろ。
前も言ったけど術後しばらくは大事だからな。色々細かい注意もあんだよ。
アーサーの病状をずっと見てきたイヴァンの方が俺様よりはそのあたりわかってっし。」
と、ギルベルトが言うと、アントーニョは

「…アーティーにもうおかしな真似せんといてや」
と不満気な顔をしたが、最終的に了承した。



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