天使な悪魔_8章_4

ストレングス オブ ノット シンキング


例によってガッタンゴットン音をたてながら愛車で教わった地点までの道を急ぐギルベルトの顔にはいつもの笑みがない。

難しい医療処置をしている時の厳しくも真剣な顔とも違う。

何か傷ついたような、辛そうな…いっそ泣きそうな子どものようなと言うのが正しいのだろうか…。

恐れてたことが起こっちゃったな…と思うフランシス。

アーサーに何かあればアントーニョのダメージは計り知れない…が、それ以上に兄と同じ病気の人間をまた死なせたというトラウマを突付かれつつ悪友を亡くすギルベルトのダメージも大きい。

こんなことならアントーニョが休暇に一人で旅行に行くと言った時に、無理にでも自分がついていけば良かったかも…と、今更ながらに後悔をした。

アントーニョをアーサーに出会わせてはいけなかった…フランシスは今更ながらそう思った。


「ああ~、クソッ!今度改造すっ時はもうちょっとパワー出るようにしねえとっ!」
とイライラとつぶやくギルベルト。

いや…こんな色々積んだ大型車がこれ以上スピードだしたら十分危ないって…と、フランシスは思うわけだが、ツッコミをいれようにも口を開いたら舌をかみそうだ。
なので自分の舌の安全のために黙っておく。

しばらくすると遠くから砂埃。

目を凝らすと少し先に一台の車が止まっていて、その車をはさんで向こう側から一台の車が疾走してくるのが見える。

止まった車の側まで来て急ブレーキをかけるギルベルトに、フランシスは盛大にガックンと前のめる。
シートベルトをつけていなかったら、放り出されそうな勢いだ。

それに何もいう事なく、ギルベルトは無言で飛び出していき、フランシスも慌ててそれを追う。


「頸動脈と頸静脈を間違って切るってさ、軍人としてどうかと思うよ~。
まあおかげで出血止まって、手当すれば余裕で助かるんだけどさ。
とりあえず、ギルベルト君の車、移動病院なんでしょ?運んじゃおう。」

少し離れた所から見ただけで状態がわかったらしく、肩をすくめてそう言うと手を伸ばすイヴァンを、ギルベルトは

「待てっ!」
と制止する。

「ギルベルト君?」
きょとんと首をかしげるイヴァンに、ギルベルトはこぶしを握りしめたまま俯いた。

「そのままにしといてやろうぜ…」
少しつらそうに眉を寄せて、口元だけ無理に笑みの形を作って言うギルベルトに、イヴァンは
「何を言ってるの?」
と不思議そうに問う。

二人の間から覗き見ると、仰向けに倒れているアーサーに折り重なるように倒れているアントーニョの顔には泣きはらしたような跡…。

傷はどうやら側に転がっているナイフで自らつけたもののようだ。

置いていかれたくない…一緒にいたい…そう思って後を追ったその意志を尊重してやろうと、ギルベルトは思ったのだろう。

「トーニョは助かったとしても、アーサーは無理だ。
こいつはいつもいつも大事なモノに置いてかれる事に苦しんで苦しんで…アーサーで大事なモノを持つのは最後にするって言ってたんだ。
大事なモノ亡くして自分だけ生き長らえ続けんのはキツイんだよ、マジ。」

一緒に人生を終わらせるタイミングが掴めたんなら、それを見送ってやりたい…と、そう小さく付け加えるギルベルトをスルーで、イヴァンは後ろにいる助手のトーリスに声をかけた。

「じゃ、そういうことでトーリス、アントーニョ君の方を運んじゃってよ。
僕はアーサー君運ぶからさ。」
と、言う言葉に、トーリスが慌てて

「ちょ、それ反対じゃないですか?僕一人じゃ無理ですよ。」
と言うと、
「じゃ、そこの君もっ。さっさとしてね」
と、イヴァンはフランシスをもうながした。

「ちょ、待てよっ!俺の話…」
「聞いてたよ?
ようはアーサー君助けられなかったらアントーニョ君にトドメさしてあげればいいんだよね?
一応手術用の血液は持ってきたからさ、ちゃっちゃとオペ始めるよ?
どうせ失敗するんでもやるだけはやればいいじゃない?僕達一応お医者さんなんだしさ」

にこやかに…しかし断固として言うイヴァンに、ギルベルトは一瞬ぽか~んと呆けて、次の瞬間、

「ああ、そうだな。ホワイトアースの医術学校の主席と次席が揃ってんだから、チャレンジしてみねえってほうはないな。」
と、泣き笑いを浮かべた。



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