企み
脱出手順は大佐が整えてくれた。
アントーニョが出動しなければならない状況の戦闘を作り出し、内部に潜入している自軍のスパイに車でアーサーを連れださせる。
作戦上、飽くまでアーサーが自発的に脱出したと思われないように、との指定をしたら、ご丁寧にもそのスパイにアントーニョの居住スペース内の電話にアーサー宛にニセのおびき出しの電話まで入れさせてくれた。
これで一人内部のスパイが使えなくなるが、彼的にはアントーニョを葬れるなら安い犠牲なのだろう…。
絶対にバレないように…とのアーサーの要望の結果、そのスパイは今遺体としてお忍びで近くまで来ている大佐の足元に転がっている。
一見人の良さそうな外見に似合わず、相変わらず酷薄な支配者だ。
彼は上から来た命令の最後に自分の死があることなど思っても見なかっただろう…と、アーサーはその遺体から目をそむける事もできず、そう思った。
絶対に知られないように…という自分の要望がこんな簡単に他人の命を摘み取ってしまう結果になるのか…と、そんな世界に生きていたのか…と、今更ながらに驚く。
しかし深く考えると色々行動できなくなりそうだ…と、あえて現実から目を背け、昔、世界の日常の全てがまだディスプレイの向こうの出来事であった頃のように、平面上のもののように物事を考える事にする。
「で?お前を囮に奴をおびき出す…そんなところか?」
アーサーの存在自体が機密…それは変わってないらしい。
大佐は供も連れずに一人で来ている。
まあ…誘拐されたように連れださせれば、そんな展開は馬鹿でも思いつくだろう。
大佐の言葉にアーサーは小さくうなづいた。
「あいつは馬鹿だから俺を盾にすれば抵抗もせずに殺られてくれる。」
アーサーの言葉に、大佐は
「随分と気に入られたみたいだな。
私の軍師は演技もなかなかのものだったということか。」
と、楽しそうに笑った。
その笑みをひどく覚めた気持ちで見ている元部下のペリドットに気づく事なく…。
彼にとってアーサーは命じられた事をこなしていく歯車の一つでしかなく、その歯車が感情を持っているなどとは思ってもみないのだろう。
実際、現実がディスプレイの中にしか存在していなかった頃はそうだったのかもしれない。
しかし皮肉な事に、今回命じられた事をこなすために外に出た結果、アーサーは知ってしまったのだ。
世界は平面的なディスプレイの中に存在する0と1の数字の羅列で出来ているわけではないことを…。
こうして壊れてしまった機械に気づかず、使い続けようとしている事が彼の敗因だとアーサーは他人ごとのように思った。
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