カミングアウト
「あのな…俺本当に敵軍の人間なんだけど……」
すっかり日常になりつつある撮影の合間の休憩時間…アントーニョに確認するようにそう言ってみる。
本気でこんな有名になってスパイでしたなんて知れたらアーサーが処分されるだけじゃすまないんじゃないだろうか…と、心配はつきない。
が、当たり前に
「もうそんな嘘言って離れようとせんでも、皆アーティーの事わかってくれとるから大丈夫やで?
あんま色々気にしたらあかんよ。良うならへんで?」
と返される。
アントーニョに言っても信じてもらえないのでギルベルトにも同じ事を言ってみた。
「あのな…敵地に潜入しようと思ったらまずちゃんと心臓治さないとな。
術後2年はまだ病人だからな?」
「…いや…その…病人に見せかけるために開胸手術しただけで…」
「あ~…一応俺様医者だからな?
フリかどうかくらいはみわけつくぞ?
まあ…病気でもないのに意志の力で本当に発作起こす能力とかあるなら別だけどな。
そんなこと出来たら魔法使いだ。」
と、ケセセっと笑われた。
「フラン……」
「あのね、お兄さんも諜報活動もしてるから同類はなんとな~くわかるよ?」
「じゃあっ!」
「アーサーほどその手のものから縁遠い人間も珍しいと思う。
とりあえずさ…もう少し世間てものを知ってからその手の嘘つこうよ…。」
スパイらしくない、スパイに見えないスパイこそ優秀なスパイじゃないかっ!
と、プク~っと膨れて見ると、
「膨れたアーティーも可愛えわぁ」
と、アントーニョにぎゅうぎゅう抱きしめられる。
本当に…それこそ基地中にアントーニョの関係者と知れ渡った状態でスパイだとバレたら可愛いなんて言ってられないぞ…と、再度心配になって訴えるが、
「アーティーを陥れようなんて輩出てきたら親分が成敗したるわ。」
と、アントーニョが
「診断書とか心電図とかレントゲン写真とか諸々コピーして説明付けて配ってやるよ」
と、ギルベルトが
「アーサーみたいなスパイしかいないなら、お兄さん向こうの軍で高報酬でスパイがなんたるかを伝授してあげに行くよ。」
と、フランシスがそれぞれ口をそろえて言う。
そして本田までがクスクスと笑いながら
「こんな可愛らしいスパイなら私の所にもぜひ来て頂きたいですね」
と、言うのに、アーサーはまたぷく~っと膨れてみせるが、そこでただ一人フェリシアーノが
「…ごめんネ…。俺が変なタイミングで連れ出してあんな変な噂耳に入れちゃったから…。
それが原因であやうくアーサー死んじゃうとこだったし…ホントごめん…」
と、ひどく落ち込み始めたので、アーサーもそれ以上の主張は諦めた。
誰に言えば信じてもらえるのだろうか…。
よしんば自軍の他の人間を捕まえて証明させようとしたところで、アーサーの存在を知っているのは手術したイヴァンとアーサーを育てたカーペンター大佐だけだ。
証明しようがない…と、アーサーは落ち込むが、何故そうまでして証明しようがないことを証明する必要性があるのかはわかっていなかったりする。
実は…中途半端にバレる可能性があるなら別として、どうやってもバレようがない事なら、そこまで必死にバラす必要はないのだ…という考えも頭にない。
そのあたりの盲目さがフランシスにスパイ失格と言われる原因だということにも当然気づいてない。
カミングアウトしようとすればするほど、どんどんドツボにはまっていく。
『実はスパイなんだ…』というアーサーの言葉は、半ばありえない冗談のような形で捉えられる方向で落ち着きつつある。
こうしてなし崩し的にこちらの軍の側の一員として静かに暮す事になるのだろうか…
いや…そう思って諦めかけていた頃に、不測の事態というものは起きるものである。
アーサーの正体を知る数少ない人物…カーペンター大佐の手によって…。
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