どうしてこうなった?
開けられたドアの向こう…空き部屋いっぱいに積まれた贈り物の山。
綺麗な風景の写真集や刺繍の図案、本、花、その他もろもろ、件の雑誌が発売されて数日後、本田によって運び込まれた編集部に届いたアーサー宛のお見舞い品だ。
「一応安全はきちんとこちらの方で確認したものですのでご安心を」
と、にこやかに言われて、アーサーは礼を言いつつ笑顔をひきつらせる。
何故?何が起こった?と、目を白黒させていると、見かねた本田が説明してくれた。
元々ほぼ男所帯のこの軍ではフェリシアーノの人気っぷりでもわかるように、可愛らしい…守ってあげたいタイプに弱い。
そんな中で先日の記事は多くの軍人達の心を鷲掴みにしたらしい。
一応何件かある特集記事内のウェディング記事の一つのはずだったのだが、アーサーの記事だけものすごい反響で、編集部にはこの他にもまだ安全確認の終わっていない見舞い品やら手紙やらが山と届いているとのことだ。
もう個人で騙してました…じゃすまないレベルで大げさになっている気がする。
どうしよう…と、アーサーは内心頭を抱え、自分でも確認しきれない量の荷物に目を向けた。
(あ…薔薇……)
その時、半ばパニック半ば呆然としていたアーサーの目に止まったのは小さな薔薇の鉢植えだった。
おそらく写真で白い薔薇のブーケを持っていたためだろう。
奇しくもそれはアーサーが一番好きな花で…自軍の基地内で唯一出ることの許されていたほんの小さな庭の中でも育てていたものだった。
その視線に気づいてか、ベッドから動けないアーサーの元へアントーニョが鉢植えを持ってきてくれる。
「これやろ?そう言えば初めて見かけた時も、すごぃ嬉しそうにバラ園見とったな。」
と言われて、見られてたのか…と、少し赤くなる。
「薔薇…ずっと育ててたから…」
と小さく頷くと、アントーニョはとんでもない提案をする。
「ほんなら庭にそれ用の温室作ったるわ。そこで薔薇でもなんでも育てたらええわ。」
アントーニョの居住スペースには大きな庭があり、その一角にアントーニョ自身も趣味で温室を作り、トマトを植えている。
軍の敷地は大きなドームで覆われていて空調もしっかりしているが、より適した気温にするために温室なのだ。
もちろん、それは上級将校にのみ許された贅沢なわけだが……。
「そこまですることは……」
それでもさすがにそこまでさせるわけには…とアーサーは慌てて辞退するが、アントーニョはチュッと軽く額に口づけを落とすと
「ええねん。それでアーティーが少しでも元気になってくれるんやったら全然かまへんよ。
アーティーが起きれるくらいまでには出来上がるようにせっついとくから、早う元気になり。」
と軽くアーサーの髪に指を滑らせた。
もちろんその様子は読者のリクエストに応える形で更に雑誌に掲載され、更に多くの薔薇が編集部へと届けられ…アーサーは前代未聞、実は敵方の暗殺者であるはずが『白薔薇の天使』と称される基地内屈指の有名一般人になっていった。
ああ、どうしてこうなった…。
事実を突きつけたとしても事実の方が虚構として扱われる…。
本当にネジ曲がりすぎた事実がさらに斜め上方向に変わっていくのを、もう誰も止められない……。
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