青い大地の果てにあるもの6章_1

「えっ?!お兄さん寝ちゃってたっ?!!!」
ガバっと身を起こしたフランシスは慌てて仮眠用のベッドから飛び出る。

ありえないっ!こんな空前絶後の大事件の真っ最中に爆睡?!
我ながら有り得ないっ!!
レッドムーンの初めての本部襲来…しかも、本部襲来組とは別に、反対方向からは欧州支部を壊滅させた強力なイヴィルが混じった部隊が接近中。
下手すればブルーアース壊滅の危機?!
そんな緊急事態が始まった直後、自分は爆睡してしまったらしいと知った時、さすがに仕事は優雅に、カツカツとなんてしないというのが信条のフランシスも青くなった。

そもそも…なんで仮眠用ベッドにいるのかからして記憶がない。
確かレッドムーン襲撃に備えてデスクで医療品や看護の人員のチェックをしていたはずだ…。
それで……それで?
青くなりながら私室からコソっと顔をのぞかせると、皆が忙しく立ち働いている。
今佳境らしい。
これだけ混乱していればコッソリ混じれば寝てた事ばれないかな…などと姑息な事を思いつつ、そ~っと部屋を出たフランシスは

「あ、起きられたんですね。丁度良いところに。東門の人員についてご相談したい事が…」
と、後ろから声をかけられ、驚きのあまり悲鳴をあげた。

「ゆ…ゆうりちゃん、これには訳が……」

振り向くとそこには、フランシスが医療部長に就任してからその補佐兼雑用にとつけられた看護師の女性がにこやかな笑顔を浮かべている。

この状況でにこやかな笑顔…怖い。

それでなくても職場ではままあることだが、新米上司よりはその職場に長い部下の方が職場のもろもろに通じていて立場が強かったりする。

フランシスとゆうりの関係はまさにそれで、年若い部長として風当たりも強く、もともと緻密な性格でもないので抜けの多かったフランシスは、この人あたりは柔らかいがしっかり者の部下に色々フォローを入れてもらっていた。
はっきりいって…この部下を怒らせると色々が立ち行かなくなる気がする。

「あの…ね、あ、そうだっ!ねっ、今度本部に来た坊ちゃんの珍しい水着写真で手を打たない?!お兄さん極東行ってた時に支部の面々と海行って撮ったんだっ!」

本部内で数少ない乙女ジャーナルの理解者、フランシス。
当然自分の可愛い部下がその編集員の一人である事は知っていた。

そこで財布の中からとっておきの写真を出して交渉を試みると、ゆうりはサっとそれに手を伸ばし、確認後に懐へ。

「この写真で何をしていたのかは追及しないであげますね」
と非常に良い笑顔で言ったあと、こくりと可愛く小首をかしげて続けた。

「さっき藍ちゃんが『部長、このところお疲れ見たいですし、少し休んで頂いた方がいいですよねっ』ってはりきってフランシスさんのコーヒーに何かいれてたから…よく眠れたみたいで良かったですね。」

え…?ええっ?ねえ、ゆうりちゃん、君それ止めなかったんだよね?!知ってたんだよね?!お兄さん写真取られ損?!
悪気はない…が、少々ずれてる部下、藍の気づかいに涙するフランシス。

そんなフランシスに
「ゆっくり寝られたところでしっかり働いて下さいね♪
じゃ、これ確認して良いようだったらサインして持ってきて下さいね~」
と、にこやかに言って人員配置図と交換に写真を懐に去っていくゆうりを呆然と見送った。


「お兄さん…良い部下ばかりで幸せモノだよ」
恐らく全て知った上で起こさなかったのも、戦闘が始まったら修羅場になり休憩など取れないであろうフランシスに前準備などの雑用をさせないで、休ませてやろうという心遣いでもあるはずなので、怒るに怒れなくて、小さく苦笑いをするフランシスだったが、その後のもう一つの出来事は苦笑いではすまされなかった。



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