青い大地の果てにあるもの6章_2

「ちょ、いねえってどういう事だよっ?!」

怪我人が続出する中、各部署を見回ってフランシスが医療本部に戻ってくると、聞きなれた声がする。

「どうしたの?ゆうりちゃん。外まで聞こえてるけど…」
と、自動ドアをくぐって留守を任せていた部下に声をかけると、
「あ、フランシスさん…」
と、その姿を認めたゆうりはホッとしたような…でも少し困ったような視線をフランシスに向けた。

「あのさ、女の子には優しくしようよ。ロヴィ」
苛立っていたのは珍しい相手だ。
苛立つのが珍しいのではない。
ブレインの副本部長であるロヴィーノがこの医療本部を訪ねるのが珍しいと言う事だ。

フランシスはとりあえずゆうり相手に激昂しているロヴィーノにそう声をかけると、2人の間に入って、大変な時に留守任せちゃっててごめんね、と、ゆうりに少し笑いかける。

「で?うちの子に何怒ってたのよ?」
と今度はロヴィーノの方を向き直って聞くと、ロヴィーノは今度はフランシスに食ってかかった。

「ジジイが年甲斐もなく前線見に行って怪我して帰ってきやがったんで桜借りてえから来たんだけど、他に行ってていねえの一点張りだからっ。本部長みれねえくらいの用なんかねえだろっ!」

「あ~、あの人も年考えて行動した方がいいよね、いい加減。
で?怪我の具合はどうなのよ?」
と、フランシスが聞くと、ゆうりがサッとカルテを差し出し、フランシスは受け取ってそれに目を通す。

「ふ~ん…。命に別条はないけど陣頭指揮は無理な程度…かぁ。微妙だねぇ」
そのフランシスの呑気な口調にロヴィーノがさらに苛立った。

「落ち着いてねえで、さっさと桜に治させろっ!ボスが不在じゃ勝てる戦いも勝てねえだろっ!!」

「ん~、ごめんね。桜ちゃんは前線行ってもらってる。じいさんの代わりはロヴィ宜しく」
「ざけんなっ!!呼び戻せっ!!!」
キレるロヴィーノに、フランシスは無理っと、即答する。

「ロヴィは“副”本部長でしょ?副っていうのは本部長がいない時に代理を務めるのもお仕事なのよ?ただ付いて回ってお手伝いするだけならただの秘書だよ?」

柔らかい…しかし譲らないという意志を持った口調で、自分でも気にしている痛いところを突かれて口ごもるロヴィーノ。

ああ、可哀想な事をしているなぁ…と思いつつも、フランシスは心の中で詫びながら続けた。

「それに比べて前線で戦ってる兵の代わりはいないんだよ。一人抜ければ即戦力に響くし、敗戦につながる。ひとりかけるとモロ戦況に響くのよ。ほら、わかったら戻ってじいさんの代わりに指揮取っておいで」

と、うながすと、ロヴィーノはとても不満げに…納得できない顔で、それでも言い返す言葉がなく帰っていく。

それを見送ったあと、フランシスは、さて、と、ゆうりを振り返った。

「で?桜ちゃんはどこに?」
と、そこで初めてそれを聞く。

すみません…と、ゆうりはそれに頭を下げた。

「えっとね、まだ謝るのは早いでしょ。お兄さん事情把握してないから、怒るべきなのかどうかわかんないから、とりあえず説明して?」

あくまで穏やかに聞くフランシスにゆうりは周りの女性陣を見回して、皆がうなづくと口を開いた。

「すみません…アーサーさんを追って外組の方です。元々無茶する人だからって言って…」
それだけ言うと、また、すみません、と頭を下げるゆうりに復唱するように、後ろの女性陣も、謝罪の言葉と共に頭を下げる。

このあたり全員グルだったかぁ…と、フランシスは苦笑する。
まあ…医療班との連携が多くなるであろう治癒系ジャスティスの桜が医療班の女性陣と仲良くなったのは良い事ではあるけれど…。

(今回は…下手すると始末書じゃすまないなぁ…)
と、内心頭を悩ませた。
この未曽有の非常時に命令違反…そしてそれによって別部署のトップの速やかな治癒ができなかったときたら、責任問題になる事必至である。

しかし…自分達が忙しく大変になる事を承知でフランシスの休息や新しい仲間のメンタルに心を砕いてくれたのでろう自分の可愛い部下達にそれが行くのは嫌だな、と、フランシスはフェミニストな彼らしい考えに至った。

「ね、今回はみんなしてお兄さんに内緒で行動したわけだよね?」
わざと意地悪な言い方をすると、女性陣一同身をすくませる。

「じゃあさ、一つだけお兄さんのお願い聞いてくれる?それでチャラにするからさ」
「はい、それはもう…。薬盛ったわけですし責任は取りますっ!辞表でもなんでも…」
と、一歩進み出て言う藍を制するように、フランシスは、それは嫌、と、笑いながら自分の人差し指を彼女の唇にトンとおしつけた。

「今回の事はね、お兄さんの判断です。お兄さんが忙しくなる前に仮眠を取りたいからその間の指揮をゆうりちゃんに任せて、外組のフォローができなくて心配だから桜ちゃんに行ってもらったの。短時間で一気に眠れるように藍ちゃんにお薬を用意してもらったのもお兄さんの指示っ。それを徹底させることっ。いいね?」

「え、でもそれじゃあ…」

「いいのいいの。お兄さん、お兄さんの可愛いお嬢さん達が一人でも欠けるの嫌だもん。この部署はね、お兄さんの楽園なの~。医療本部長のお兄さんなら始末書で済むからさっ」

そのかわり始末書の代筆お願いね、と、パチ~ン☆とウィンクをして見せるフランシスに、医療班のお嬢さん達はみんな、
「部長~~!!!大好きっ!!!!」
と、かけよって抱きついた。



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