霊柩車にならないように
「とりあえず…早急に連れて帰ってまずレントゲンだ。」
イヴァンが去ってアーサーを回収すると“華麗な俺様と小鳥さん号”は一路基地へと向かう。
その道中で難しい顔のままそう言うギルベルトに、アントーニョは眠ったままのアーサーの手をしっかり握りしめたまま、不安げに視線を向けた。
「なあ…さっきの話。どういう事なん?」
その問いにギルベルトはひどく緊張した面持ちで口を開く。
「心臓に異物を埋め込んでいるってことは…だ、それでなくても術後の拒絶反応で2年以内に5割は死ぬって確率がほぼ10割に近くなるってことだ。」
「うそ…やろ…」
思わず血の気を失って倒れかかるアントーニョをフランシスが慌てて支えた。
そんなやりとりを前にギルベルトは小さく首を横に振った。
「いや、そのまま放っておけばたぶん2年も持たねえ。
だから取り出さねえとなんだけど…」
「それならちゃっちゃと取り出してやっ!」
「それが簡単なことじゃねえ。
まず探してみねえとだけど、取り出しにくい所に埋めてる可能性が少なくねえし、それでなくても大きな手術をしたばかりでまた大きな手術っていうと、アーサー自身の体力的な問題もある。
拒絶反応が起きるギリギリまでアーサーの体力の回復を待つのが理想なんだけど、そのタイミングを誤ると、取り返しのつかねえことになるし…」
「そんなんっ!ギルちゃん名医やろっ?!!助けたってやっ!!」
思わずギルベルトの襟首を掴むアントーニョをフランシスが慌てて止める。
が、ギルベルトは揺さぶられるまま、悪い…と、うつむいた。
「たぶんイヴァンがこんな手の込んだことしたのは俺への嫌がらせだと思う。
なんでかわかんねえんだけどな…。
医学生のうちは確かに仲良くやってたんだ。
なのに卒業する段になって急にあっちの軍行くなんて言い出したのは、たぶん俺と一緒にいたくなかったからで…何をやっちまったのか俺自身にもわかんねえんだ。」
「ギルちゃんとあいつの関係なんてどうでもええわっ!
アーティーを……」
「ああ、助けるから。絶対助ける。全力で助けるからっ」
思いつめた顔でそう言うギルベルトに、フランシスと運転席のフェリシアーノが心配そうにそっと視線を送った。
「なあ…お前の気持ちもわかるけどさ…ギルちゃんのこともあんまり追い詰めないようにしなさいよ?
誰より責任感じてんのはギルちゃん本人なんだからね?」
そのままアーサーの状態をみるのに集中し始めたギルベルトをちらりとみて、フランシスはアントーニョに向き合った。
普段偉そうでテンションの高いギルベルトがひどく思いつめた顔で落ち込んでいると、フランシスとしても非常に落ち着かない。
なのでそうフォローをいれてみると、今度はアントーニョがポロポロ泣きだした。
「俺かて追い詰められてるし、責任かて感じとるわ。
皆には言わへんかってんけど、最近アーティー一人にせんようにしとったの、アーティーが自殺しようとしとったからなんや。」
「へ?なに?何があったのよ?!」
寝耳に水の新事実に驚いて詰め寄るフランシスに、アントーニョは子どものようにシャクリをあげる。
「親分、仕事から早めに帰ってきたら、アーティーが居間で思いつめた目で包丁握っとったんや。
もうちょっと帰り遅かったら死んでもうててん。
そう思うたら心臓ズタズタに切り裂かれた気分やったわ。
ちゃんと根回しとかしとかんと無責任な噂とかあの子の耳に入れたせいで、あの子、そこまで追い詰めてもうたんや。
そもそもあの子がここにおらなあかんくなったんは全部親分のせいやん?
なのにあの子、スパイやと思われるような自分がおったら俺の立場悪くなるんちゃうかって心配しとったんやで?」
「うわあ…ごめん。お兄さんももうちょっと色々根回ししとけば良かったわ。」
「優しい子やから…あの子自身の事言うよりそのほうが効果あるかと思うて、アーティーになんかあったら親分も死ぬから言うたんやけど、今度は死なへんかったらええんかって思うたのか、出て行こうとするし…。
このあたり空気めっちゃ悪いから、アーティーみたいに体悪いと即命に関わってまうのに…」
「うん…そのあたりちゃんと説明してなかったよね…。意識戻ったら説明しておこう」
「この子に何かあったら全部親分のせいや…俺も死ぬわ…」
無言でうなだれながら作業を続けるギルベルトと、わんわん大声で泣くアントーニョに囲まれて、フランシスは(フェリちゃん、助けて…)と、視線を送ってみるが、普段は読まない空気を自衛の時のみは思い切り読めるらしいフェリシアーノに華麗にスルーされる。
ああ、やぶ蛇でした。
お兄さん大失敗。
お願い二人で対照的な落ち込み方で落ち込まないで…。
これ…天使ちゃんに何かあったらこんなもんじゃすまないよね?
下手すると二人してお兄さん巻き込んで無理心中くらいしかねない勢いなんだけど…
全面小鳥模様の無駄に明るい室内で無駄に暗く落ち込む悪友たちにフランシスは頭を抱えた。
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