子どもの純粋さを持つ大人
「イヴァンさん…いいんですか?あれで。あれじゃあ絶対に真意なんて伝わりませんよ?」
イヴァンがバックミラーで遠ざかる旧友を覗いていると、車を運転している人の良さそうな青年がが少し眉をひそめた。
助手兼運転手のトーリスの言葉に、イヴァンはニッコリと邪気のない笑みを浮かべる。
「うん、いいんだよ、トーリス。
ギルベルト君がいい加減お兄さんの事から開放されてくれればね。
僕はそれでいいんだ♪
そのためにはアーサー君には自分がうちの軍の人間だなんて事バラされたら困るし。
飽くまで善意の第三者である病人をギルベルト君が救うって形じゃないとね。
まあアントーニョ君は思い込み激しそうだから、アーサー君が信じさせようとしても無理そうだけど。
でもそれは結果的にはアーサー君自身の幸せにもつながるわけだからいいんじゃない?」
「…イヴァンさんの幸せには?」
「つながるよ?ギルベルト君は僕の最初にして唯一の友達だからね。
彼の方は信じてくれてないみたいだけど…いつか信じてくれるといいな。」
子どものように無邪気に他人を傷つけるが、同時に子どものように損得勘定抜きに好きな相手に対して良かれと思うことをするのをためらわない。
良くも悪くも純粋なこの人を何故そこまで皆が嫌うのか…。
まあ自分も敵意を向けられたら怖いわけだが、怖いだけではなく愛すべき人である事も知っている。
「そうですね。いつかわかってもらえてまた一緒にお茶でも出来るようになると良いですね」
友人に同じ病気の人間を救えたと思わせる事で、実兄を救えなかったという気持ちを昇華させられれば…それだけの理由で、利用する人間を見つけるためだけに敢えてその友人と敵対する軍を就職先に選んだ時点で、通常の人間の理解は得られないだろう。
ましてやそのあり余る才能を無駄に発揮して、友人に治療をさせるためだけに特定の病気の人間の術後と同じ状態を作り出して健康な人間に施そうなんて、発想がすでに尋常じゃない。
おそらくその友人も、そんなにまで想われているなんて思ってもみないに違いない。
彼にとってはイヴァンはわざわざ自分と敵対する側についた人間だ。
それでも…いつかイヴァンの真意を友人が知って、仲良くしてくれることをトーリスは願わずにはいられなかった。
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