春風
「風が気持良いな。草の匂いがする。」
少しだけ開いた窓から入ってくる風に少年の金色の髪が吹き上げられる。
「…綺麗やなぁ…」
キラキラと降り注ぐ光のような髪が白い肌の上を舞う様子に思わず目を細めてアントーニョがつぶやくと、
「そうだなっ。
リゾート地の光景も綺麗だけど…人の手の入ってない本当に自然な風景はもっと綺麗だ。」
と、アーサーは長い金色のまつげに縁取られた澄んだペリドットの瞳を輝かせて笑った。
どうやらそれを光景に対する感想と勘違いしたらしいが、それについては敢えて指摘しない。
それよりも手の込んだ人工物が尊いものとしてありがたがられる中で、こんなふうに自然を愛する人間が自分以外にいたのか…と、そのことにむしろ感動を覚える。
清らかで…本当に側にいるだけで空気が清浄化されていく気がする。
生きていくために両の手を血に染めて他人の屍を踏み越えて来た事に後悔はなかった。
しかし、もし自分がそこまで貧しくもなく、普通に生きていくのに困らない程度の田畑でも持って生活をしていたなら、もう少しこの少年と交流を持つこともできたのかもしれない…と、それだけは残念に思った。
どんなに少年が心やすらぐ慕わしいモノだったとしても、一緒にいられるのは長くてもサンルイでの休暇の間までだ。
血塗られた軍になど連れていけるわけがない。
きっと自分の関係者として認識されれば、あっという間に敵対勢力に狙われて白い羽根は無残にむしられ、儚い命は摘み取られてしまうだろう。
そんなことは絶対にさせられない。
そんなことになったらきっと自分は絶対に自分が許せないだろう。
守りたい…。
しかし、この愛おしい存在のために自分が唯一出来る事…それは必要以上に関わらないようにすること…悲しいがそれが現実だった。
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