再会
「ちょっとそのバス待ってくれっ!!」
その声が聞こえたのは丁度バスが出発しようとエンジンをかけはじめた時だった。
弾かれたように振り向いたアントーニョの視界に入ってきたのは、荷物を手に息を切らせている昨日の天使。
どうして?!と思うまもなく、
「ちょっと待ったってっ!」
と、運転手にいうと、アントーニョはバスを飛び降りる。
バスのステップを駆け降りるのももどかしく一気に飛び降りると、少し離れたところに膝をついている少年に駆け寄った。
「坊、どないしたん?大丈夫か?!」
自分も彼の前に膝を付いてそう声をかけると、肩でせわしなく息をしていた少年は顔をあげる。
青い顔でぼ~っと焦点があっていない。
顔の前で手を振ってみるが、反応がない。
強い日差しのせいで貧血でも起こしているのかもしれない。
とりあえず涼しい所に…と、アントーニョは少年の荷物を運転手に頼むと少年を抱き上げてバスの中に運ぶ。
何かあったら面倒をみてやれるように…今だけ…と自分に言い訳しながらアントーニョは少年の隣の席に座った。
少年はやはり体調を崩していたようだ。
ぐったりと気を失うように少し眠って目を覚ましたあと、ぽつりぽつりと話し始める。
彼は病院ばかり集まった中立の医療地域の出身だった。
正確には…先天性の心臓病を持って生まれたため両親に見限られてそこにある病院に放り込まれて育ったという。
物心ついた頃からほとんど病室から出た事がなかったとのことで、なるほど世間知らずなのもうなづけた。
「今は…大丈夫なん?顔色悪いけど…」
事情を知ってしまえば、あらためてひどく心配になってくる。
重病人なのに一人旅なんて危なくないのだろうか…。
まさか…手の施しようのない状態にまでなって、最期に外に出てみたいとかそういう事情なのだろうか…。
色々がグルグル回って自分までも青くなるアントーニョに、少年…アーサーは少し困ったような笑みを浮かべた。
「今は大丈夫だ。たまたまドナーが見つかって手術したから。
さっきは…外に出るの初めてだったから少し疲れたんだと思う。
心配かけてすまない。」
その言葉でひとまずホッとするアントーニョ。
この子がこんな幼い姿のまま冷たくなっていくなんて想像するだけでゾッとする。
「そうか…。でも気分悪くなったら遠慮のう言うてや?
サンルイまではだいぶあるし。」
むしろサンルイに着いても連絡が取れれば…と思うが、今の段階でそこまで踏み込めばさすがに引かれるだろうから、アントーニョはもう少し親しくなるまでは待つことにした。
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