出発
どちらにしても翌朝には今度は高原のリゾートへと移動する予定だった。
午前中にチェックアウトを済ませて、必要最低限だけ持ってきた着替えなどの荷物のバッグを手に長距離バスに乗る。
大抵の観光客は飛行機でひとっ飛びな距離で敢えてバスを選んだのは、観光地につくまでの自然な風景を楽しみたいからだ。
こんな選択も一人でないとなかなか出来ない。
我ながらなかなか良い選択だと昨日の夕方…正確にはあの天使のような少年に出会うまでは思っていたのだが、今は移動時間を飛行機で短縮して、もう少しあのホテルで滞在していても良かったのでは?と思ってしまう。
いや、むしろ移動せずに休みの間中、遠目でも良いから見ていたかった。
今からでも予定を変えて引き返そうか…と一瞬思ったが、人気の高級リゾートホテルだけに今日言って今日の予約が取れるとは思えない。
もちろん宿泊客でもないのにホテルの敷地内をウロウロも出来ないし、プライベートビーチまで兼ね備えたホテルの敷地内で何でもできるのに、あの自販の使い方さえ知らなかったお坊ちゃまがわざわざ外の街に出てくるとは考えにくい。
だから高原行きをとりやめても意味は無いか…と考えなおしてため息をつく。
もともと自分のように腕一つで成り上がったものの根っからの庶民とは縁のない相手だったのだ。
天上の世界を垣間見れただけで良しとするべきだ…。
アントーニョは無理矢理そう自分を納得させて、バスの座席に腰を下ろした。
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