魔王を倒すぞ、もう普憫なんて言わせない!_アリスの正体

プロイセンがずるずると気を失ったアメリカを引きずって行くと、フランスが『ひぃっ』と悲鳴をあげた。

悲鳴をあげたいのはこっちだ…と、それを見たプロイセンは言いたくなった。
断固として言いたい。

そんな気持ちを込めてプロイセンが
「てめえが諸悪の根源なわけだからな?
責任取れよ?」
と、笑顔を引きつらせながら拳を握りしめると、さきほどの2大怪獣を撃沈した手腕を間近で見ていたフランスは、とりあえずそのターゲットになるのは嫌だったらしい。
慌ててコクコクと首を縦に振った。

そんなフランスをフランスの従者とも言えるトリックはにやにやと楽しそうに見ているが、一応こちらの世界の人間なのだったら…と、プロイセンが
「ちょっと込み入った話だ。席外せ」
と、クイっと顎をしゃくると、
「へいへい。騎士様に退治されないように盗賊は退散しやす」
と、肩をすくめて酒場のカウンターへと移動する。

全員がお世辞にも明るいとは言えない表情の中、1人にこにこと笑みを絶やさないイタリア。
まあ、とりあえずの今回の目的の当事者として、アメリカとフランスをというのは分かるので、プロイセンはこの食えないヘタレに全てを投げる事にした。

「で?イタちゃんが何かすんだろ?
任せておけって言ってたしな」

そう言えば、イタリアは依存はないらしい。
可愛らしくクルンを揺らしながら――本性を知っているプロイセンからすると決して可愛らしいとは思えなかったが一般的に見れば大層愛らしい――頷いた。

「そうだね。
アメリカ起こそうか。
あ、説明はするけど暴れそうになったらプロイセンお願いね」
と、イタリアがツンツンと気を失ったアメリカの頬を指先でつつくと、ガバ!!とすごい勢いでアメリカが飛び起きた。

そしてキョロキョロとあたりを見回し、すぐ横にプロイセンを発見すると、うああ!と思わず逃げようと腰を浮かせるが、
「待てっ!とりあえずイタリアちゃんが話があるらしいから、イタリアちゃんの話を聞け」
と、プロイセンは片手でガシっとその腕を掴んで再度席に座らせる。

「へ?…イタリアがかい?」
てっきりプロイセンから何か言われるのかと思って身構えていたアメリカは、その言葉にきょとんと首をかしげてイタリアに視線を向けた。

それに対してフランスが
「お兄さんもその話がある相手に入ってたりするの?」
と、もしかして…と、口を挟む。
さすがに察しが良い。

イタリアは隠すつもりはないらしく
「うん、そうだね」
と、あっさりそれを認めた。

そしてチラリとプロイセンにアイコンタクトを送る。
にこり…と可愛らしい笑みの向こう
(…暴れたり騒いだりされたら黙らせてね♪…でないと…イギリスが可哀想だよ?)
と、無言の圧力。

ああ、もう巻き込まれるのは仕方ない。
守ると決めたら面倒事も敢えて引き受けるのも本当にいたしかたないとプロイセンが小さく手をあげて了承すると、イタリアはにっこりと今度はフランスとアメリカに対して微笑みかけ、そして言った。

「アメリカもフランス兄ちゃんも実はイギリスの事好きでしょう」
「「「はあ??!!!!」」」
色々唐突過ぎてアメリカもフランスもプロイセンもぽか~んだ。

そんな周りの反応もイタリアは全く気にした様子はない。
しかもそれだけではなく、ただただニコニコと
「ね、イギリスの気持ち、知りたくない?」
と、とんでもない爆弾発言をかましてきた。


「お、俺は別にイギリスなんて好きなわけじゃないんだぞ。
イギリスの方は俺の事大好きだけどねっ」
と、そこはまだ思春期真っ只中な反応を返すアメリカ。

フランスの方はもう少しタヌキで
「そうだねぇ…お兄さんは坊ちゃんの気持ちって言うのは興味あるかな?
好奇心…って言ったら教えてくれないんだよね?
なら、好きってことにしても良いよ?教えてよ、イタリア」
と、非常に上手にかわしながらも、目的を達しようとしてくる。

どちらの反応にもイラっとするプロイセン。
しかしイタリアはさきほど自分に任せろと言ったのだ。
ここはジッと我慢の子である。

そのどちらに対しても反応せずに、イタリアは相変わらずの笑顔。
そして言う。

「ね、今ね、この世界に飛ばされた日の会議にいた主だった国でいない国がいるの…気づかない?」

げっ!!!とプロイセンは焦った。
まさかアリスがイギリスだと言うつもりかっ?!
いや…イギリスのとって不利な事はしないはず……

ここで動くべきか動かざるべきか迷っている間にフランスが話を進めてしまう。

「もしかして…いや、もしかしなくても坊ちゃんだよね?!」
「え?まだ着いてないだけじゃなくて?!」
というアメリカにフランスはきっぱりと
「坊ちゃんがそういう事で遅れを取るわけないでしょ。
魔王退治となればトドメさせる最有力候補よ?」
と、断言した。

ああ…どういう落とし所にするんだ…と、胃がキリキリ痛み始めるプロイセンにイタリアはまた意味ありげににっこり。
そして言った。

「アリス…誰かに似てると思わない?」



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