接触開始
「自分、ピレッシホテル泊まっとったやろ?俺もそこ泊まっとってん。
で、なんや気になっとったんやけど…」
気分悪くなったら遠慮のう言いや?とこれまた人がよさげな様子でそう言ったあと、男はにこやかに話し始めた。
まさか…つけていたのがバレてたのかっ?!と、当たり前に青くなるアーサーに、カリエドの方がかえって焦ったように、顔の前で両手を振った。
「いや、ちゃうねん。別に怪しい人間やないで?
単に自販の使い方とかわからんと従業員に聞いとったから珍しいなぁと思うて…」
言われて今度は赤くなった。
無知なところを見られていたのか…。
軍にいた頃はアーサーの存在自体が軍事機密のようなもので部屋から出ることはほとんど許されていなかったし、そもそもわざわざ買うまでもなく、飲み物なんかは当たり前に部屋に用意されていた。
「仕方ねえじゃねえか。
今までほとんど部屋から出た事なんかなかったから、使った事なかったし…」
とボソリと言うと、カリエドはきょとんとクビをかしげた。
「部屋から出たことないってどんな生活しとってん。」
言われて初めてアーサーは自分が失言したことに気づいた。
怪しまれたっ!
スパイとバレたらリストラどころか即捕まって情報引き出されて処刑では?
どうしよう…と、脳内を悪い想像がくるくる回る。
ところが相手は何故かそうは思わなかったらしい。
形の良い黒い眉を少し寄せて、心配そうに顔を覗きこんできた。
「なあ、自分さっきもそうやけど、どっか悪いん?
顔色悪いで?」
言われて思い出した。
そうだ…自分は世間知らずな病人設定だったんじゃないか。
「悪い…あとでちゃんと話すから、少し休んでも構わないか?
ひどく疲れてるんだ」
まだ目的地まではかなりの時間がある。
もう一度話す内容をきちんと脳内でまとめて矛盾が出ないようにしてから話そうと、アーサーは一旦寝るふりをしてインターバルを置くことにした。
実際緊張しすぎて顔色が悪くなっていたのだろう。
カリエドはその言葉を疑うことなく、
「ええよ~。俺に持たれとき」
と、アーサーの頭を引き寄せて自分の肩にもたれさせた。
太陽と…海の匂いがする。
初めて外に出て神経を張り詰めていたせいか心地良い人肌のせいか、眠るフリをするつもりがアーサーは本当にそのまま寝入ってしまった。
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