初めての外
とりあえず軍から支給された一般人の半月分くらいの生活費と着替えを持って、アーサーはカリエドの足取りを追う事にした。
初めて出る外。
大丈夫、バスの乗り方もお金の払い方も調べてきた。
身分証明書の住所は中立地帯のホワイトアース。
空気の良い、病院が集まっている地域だ。
そのエリアは様々な病人が集まっているため、ずっと入院をしていたりする人間も少なくない。
ゆえに世間知らずだろうと怪しまれないとの計らいだ。
先天性の心臓病でずっと入院していたが、ようやくドナーが見つかって手術が成功して出歩けるようになって旅行に来たホワイトアース地域の人間…というのが、軍から用意された身分で、リアリティを出すためになんと開胸手術までしたのだ。
軍もなんのかんの言ってカリエドを打倒して現状を打開したいらしい。
アーサーの他にも色々手を打ってはいるらしいが、詳細は知らない。
ともあれ、アーサーも他に構っている余裕はない。
休暇中のカリエドを追うようにバスで海辺のリゾート地シーライトから高原のサンルイまでの長距離バスのチケットを取ってとりあえず接触をと思ったのだが、あろうことか寝坊した。
急いでホテルをチェックアウトして、荷物を抱えてバス停に急ぐ。
目の前でドアが閉まりかけているバスに向かって叫んでみるが間に合いそうにない。
次のバスが出るのは二日後だ。
これでそれでなくても1年と短いタイムリミットがさらに短くなった…と、目眩がした。
力がぬけてガックリとその場に膝をつく。
そのまま走り去るバスのエンジンの音が聞こえてくるかとおもいきや、エンジンは空ぶかしされたままで、代わりに
「坊、どないしたん?大丈夫か?!」
と、思い切り側で声がしてぎょっとして顔をあげた。
太陽を背に差し出される手を呆然と見つめていると、顔の前でその手が振られる。
咄嗟に反応できないままいると、膝裏に手が回って、ひょいっとそのまま抱き上げられた。
え?ええ??
戸惑って硬直しているアーサーに構わず、手の持ち主は後ろを振り返り、
「ちょっと、誰かこの子の荷物バスに乗せたってっ!」
と、声をあげる。
「は、はい。」
と、運転手が駆け下りてきてアーサーのバッグを中へと運ぶ。
座席上の網棚に荷物が置かれた
そしてアーサーを座席に下ろすと当たり前にその隣に座る男。
黒いくせっ毛にアーサーのモノとは少し色合いの違う濃い緑の目。
整った日に焼けた顔でニコリと笑いかけてくると、たいそう人がよさそうに見える。
その正体を知らなければアーサーもただの人のよい旅行者だと思っただろう。
正体さえ知らなければ……。
アーサーをバスの中に運び込んだ男はアントーニョ・ヘルナンデス・カリエド…そう、まさにアーサーがターゲットとしている男本人だった。
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