親分が頭を打った結果_3

情熱の国リターンズ


「まだ起きてへんとええんやけど、さすがに起きとるか~」
フランスをユーロスターに押し込んだ足でマーケットで買物。
そして買物袋を抱えてスペインはイギリス邸へと急ぐ。

出来ればこれからは自分の料理だけを食べさせたい…そう思って食材を買い込んだわけだが、イギリスが起きていれば当然自分で朝食を作るか、最悪フランスの持ってきた焼き菓子で朝食にしてしまうかもしれない。

それだけは避けたい。
他の男の作ったモノを食べられるのは嫌だ。

馬鹿げた独占欲だと自分でも思うが、なにせ数百年もの抑制が一気に取り払われたばかりなのだ。
気持ちが落ち着くまではどうしようもない…と、心のなかで開き直る。
好意にしろ悪意にしろ激しくぶつけるのが情熱の国の本質だ。

買物袋を片手に閑静な住宅の立ち並ぶ道を疾走する男。
ハッハッと息を切らせながら、一路イギリス邸についた時は、さすがに汗が額を伝っていた。
しかしそれにも構わずスペインはイギリス邸の門をくぐる。
出た時は家主が寝ていたので当たり前に鍵の開いていたドアを開け、とりあえず食材をしまおうとキッチンへ向かう途中の居間に足を踏み入れた途端、スペインはドサっと手に持っていた買物袋を床に落とした。

「イギリスっ?!!どないしたん?!!!」

広いリビングの一角に置いてあるテーブルを囲む椅子の一つにもたれかかるようにして意識を失っているイギリスがいる。

「ちょ、イギリスっ!!大丈夫かっ?!!」
とりあえず首筋に手をあて、脈をみる。
一応生きている事を確認すると、スペインはイギリスを抱き上げた。

「すぐ医者呼んだるさかいなっ。ああ…でもあれか、普通の医者あかんのか…」
とりあえず今朝知ったばかりのイギリスの寝室へと走りながら、スペインは唇を噛み締めた。

「堪忍な…。家を出んといたら良かったな。」
寝室のベッドにイギリスを寝かせて、そう声をかけたあと、スペインが携帯からイギリスの秘書の電話番号を探していると、

「…スペイン……?」
と、小さな声が聞こえた。

その声にスペインが振り向くとベッドの中でイギリスがぽや~っとした視線を自分に向けている。

「イギリスっ、大丈夫かっ?!」
慌てて駆け寄るスペインをイギリスはやはりぼ~っとした目で見上げつつ、次の瞬間…
「…会えて…嬉しい。」
と、にこぉっとそれはそれはホンワリと可愛らしい笑みを浮かべた。

カタンっとスペインの手から携帯が零れ落ちる。
しかしスペインはそれにも気づかずに硬直した。

ポチっと…何かスペインの中の押したら終わりなスイッチを押してしまった…という自覚はイギリスには当然ない。

そう…イギリスは寝ぼけていた。

正確に言うと夢で(優しい)スペインに会えるといいな…と思いつつ寝たので、夢と現実の区別がついていなかった。

が、そんな事、思い切りスイッチのど真ん中を押されたスペインが知るはずもない。

「親分もやでえぇぇえええ!!!!!」

次の瞬間、スペインはイギリスの寝るベッドにダイブし、イギリスに覆いかぶさると、顔中にキスの嵐を降らせる。

そこでさすがにイギリスもハタっと気づいた。
何か…あまりにリアルすぎるっ!!
「え??…あれっ…ちょ、待って…待ったっ!スペイン、ちょっと待ったぁぁ!!!」
ワタワタと抵抗を始めるイギリスだが、単純な力ではスペインには遥か適わない上に、イギリスが押してしまったスイッチのせいで何か振りきれてしまったスペインの力は通常の5割増しにはなっている気がする。

「ホンマ嬉しいわ~。親分めっちゃ大事にしたるから。」
もう何か正気じゃない勢いでそう言われて、事情がつかめないイギリスは目を白黒させる。
しかし、そう言ってすぐスペインの顔が迫ってきたところでハッと我に返って、両手でスペインの顔を押し戻した。

「ちょ、待てっ!!それはダメだっ!!!」
焦るイギリスにスペインは心底不思議そうに
「なんで?」
と首をかしげる。

「なんでって…マウス・トゥ・マウスのキスは恋人同士がやるもので…」
「せやから今から自分は親分の恋人なんやからええやん。」
「え??いつそういう話に…」
「たった今なったやん。」
と再度スペインが顔を近づけてくる。

「待ったっ!!待ったぁぁ!!!」
さらに焦るイギリスに、スペインがピタっと動きを止めた。

「イギリス…自分もしかして……」
疑惑の眼差しに耐えかねて、イギリスはふいっと顔を反らした。

「悪かったなっ!だから止めろよっ!」

大英帝国ともあろうものが恋人の一人も作った事がないなどと恥さらしもいいところだが、それでも何がどうなってるかもわからないのにノリだけでなし崩し的には嫌だった。
それゆえの告白だったはずなのだが…

「ぜんっぜん悪ないわ」
と、何故か両手をガシっとベッドに押さえつけられ、止めるまもなく再度顔が近づいてくる。

真剣な深い緑の瞳。
ああ…意外にまつ毛ながいんだ、こいつも…などと現実逃避をしていると、唇に柔らかい感触。
それに驚く間もなくさらに唇を割って入り込んでくる舌の感触に、イギリスは茫然自失だ。

深く深く口付けられ、舌で余すことなく口内を舐めまわされ、いい加減呼吸ができなくて頭がぼ~っとしてきたところで、ようやく長い口づけから開放されると、目の前の男はニコリと少し色を含んだ男くさい笑みを浮かべて

「これでホンマに全部親分のやからな?他の男にさせたらあかんよ?」
と、唾液に濡れたイギリスの唇を、浅黒い固い指先でツ~っとなぞった。

思わず流されて頷いてしまったのは仕方ない。
恋愛未経験者と百戦錬磨のラテン男という他に、幼い頃に植え付けられた恋心というおまけ付きだ。

半分わけもわからずうなづくイギリスにスペインはクスリと笑って
「大丈夫。ホンマに大事にしたる、幸せにしたるさかいな。安心し」
と、またイギリスの大好きな温かい大きな手でイギリスの髪を愛おしげになでたのだった。




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