重い愛情Butふわふわ生活
そんな風にイギリスの側からしてみれば、どうしてこうなった?的に始まった関係ではあるのだが、やはりというか意外にというか、スペインは驚くほどマメで優しい。
「おはようさん。良い朝やで」
と、優しい呼びかけと施される柔らかい口づけで目が覚めれば、ベッド脇のテーブルには当然のように朝食が湯気を立てている。
会議とかには必ず遅れてくるのでスペインと言えば朝遅いイメージがあるが、畑仕事を趣味としているので、当然と言えば当然ながらスペインの朝は実は早いのだ。
そのままベッドで二人で朝食を取り、スペインが片付けてくれている間にイギリスは身支度をする。
買物に行けば当然荷物は取り上げられるし、ドアは自然に開けられる。
そして日々呼吸をするのと同じくらい当たり前に注がれる褒め言葉や愛情表現。
あまりそういう扱いになれないイギリスは素直に受け取れず、恥ずかしさにのたうち回るか思い切りツンで返してしまうのだが、それさえも可愛いで済まされてしまうのがすごいと思う。
スペインの態度は子どもに対する親愛と恋人に対する恋愛が適度に混じっている感じで、イギリス的にはとても心地いい。
普段ならいつか終わるのでは…とネガティブになるところではあるのだが、愛に飢えたイギリスですらその凄まじい量に溺れて窒息するのではないか思うくらいの愛情をドバドバと注がれるので、そんな事を感じる余裕すらない。
休暇の1週間が終わった後、スペインは自国へと帰って行ったが、帰る道々からイギリスを心配するメールの数々。
家についたら電話。
ちゃんとメシ食うとる?
きちんと睡眠は取らなあかんで?
戸締りちゃんとするんやで~。
フランスの馬鹿来ても家上げたらあかんよ、危ないわ~。
などなど、もう事細かに気にされる。
アメリカにウルサイと言われるイギリスですらそこまで気にしないレベルで気にしてくるのだが、元来自分も愛情が重い分、相手からも重いくらいの愛情を示されてようやく安心できるイギリス的には、煩わしさは感じない。
むしろ嬉しい。
そして…帰国した二日後…イギリスが帰宅すると何故かスペインがまた家にいた。
いわく…国にいなければできない仕事を全部周りにふったり急いで済ませたりして、仕事持参で渡英したらしい。
「離れてたら心配すぎて仕事なんて手につかへんわ」
と笑顔で言われ、結局そのまま次の世界会議まで一緒に暮らすことになったのだった。
エピローグ
こうして1か月後…世界会議でのやりとりは、そんな日常の延長線上のものであった。
もちろんスペインとて公私の区別があるというのはわかっているし、ここが公の場所で他国の目があるという認識もある。
しかし…逆に他国の目があるからこそ、これが自分達の日常になっているという事を思い知らせておかねばならない相手もいる。
その相手の一人が険しい顔でこちらに向かってきたのに気づいて、スペインはさりげなく今日もドイツの手伝いで会議に出席しているプロイセンに目配せをする。
プロイセンがそれに気づいていつでもフォローに入れる位置に動くのと、アメリカが二人の前にやってきたのとはほぼ同時だった。
「オッサン同士でみっともないんだぞっ。君達は公私のけじめってものがないのかい?」
顔を引き攣らせながら、それでも正論を吐くアメリカに、イギリスは赤くなって、すまない…と、うつむくが、スペインはニコリと笑みを浮かべた。
「あ~、堪忍な~。そやね。二人きりになって誰の目も届かん所でイチャイチャしって事やね。わかった、そうするわ。」
「そんな事言ってないんだぞっ!!」
飽くまでにこやかなスペインに声を荒げるアメリカ。
「オッサン同士でみっともないって言ってるんだっ!」
真っ赤になって怒るアメリカに、身をすくめるイギリス。
あ~、泣きそうやなぁ…、と、スペインはニコリとプロイセンと一緒にいるハンガリーに手招きをする。
「どうしたの?」
と、もうさきほどからガン見していて事情は知っているであろうに、わざわざそう聞いてくるハンガリー。
プロイセンはスペインの思わぬ行動に目を丸くしている。
「えとな~、親分、最近数百年来の誤解がようやっと解けてな、イギリスと付き合えることになったんや。でもな~、この若モンが親分みたいな親父はみっともないから恋愛なんてするな言うねん。そんなに見苦しい?どうしたらええと思う?ハンガリーなら今更遠慮する仲でもなし、はっきり言うたって?」
ショボンと見上げるスペイン。
今までそのベタベタした馬鹿っぷるに熱い眼差しを送っていたハンガリーにそれ聞くか~。
うあ~あざとい奴…と、プロイセンは苦笑する。
案の定ハンガリーは
「ううんっ!年齢も性別も恋愛の前では“自由”であるべきよっ!そもそもスペインもイギリスもまだ外見年齢20代だし、全然オッケ~よっ!」
と、拳を握りしめて力説する。
「せやんな~?“自由”やんな?」
と、自由の国を名乗るアメリカの前でことさら自由の言葉を強調するあたりが、本当にあざとい。
案の定、女性でそれほど交流もないハンガリーも間に入っている状態で、さらに自由の言葉を連呼されて言い返す言葉もなくプルプル震える合衆国。
あ~、ちょっと大人気ないレベルで追い詰めてんなぁ…。
そろそろ仲裁に入ってやるか…と、さすがに気の毒になったプロイセンが動こうとした時、先に動いた影があった。
「うん、恋愛は確かに自由だよね」
と、ニコリと参戦したのは愛の国フランスだ。
「例えば…突発的に流されてOKしちゃった交際を振り返って、やっぱり長年緩やかに優しい関係を築いてきた相手への愛を自覚してやり直したりとか…ね?」
女性ならときめかずに居られないような低い色気のある声でそう言うと、柔らかに笑みを浮かべるフランス。
まさにここ1ヶ月で関係を一気に深めただけあって、その言葉に動揺するかと思ったスペインは、全く動じる様子がない。
むしろ余裕の笑みを浮かべてイギリスの肩を抱き寄せた。
「そうやねぇ…まあ俺らの場合はまだイギリスがフランスん家に居た頃からの両片思いやったから、突発的ちゃうけどな。」
そこでスペインはいったん言葉を切って、ニヤリと黒い笑みをフランスに向ける。
「なにせ…イギリスは親分のためにず~っと…何百年も”初めて”を取っておいてくれたんやもんなぁ。親分めっちゃ感動したわ。」
「キタコレ~~!!!」
と、遠くで某島国が叫んだ気がするのは気のせいということにしよう…と、プロイセンは遠い目をする。
目の前でその話詳しくっ!!とハンガリーが肉食獣の目でメモを握っているのも…俺には関係ねえ…と。
「な…なっ…」
さすがにフランスは言葉もなく口をパクパクさせ、アメリカはこめかみに血管がうかびあがって今にも切れて倒れそうだ。
「お、お前っ!!なにこんなとこで言ってるんだっ!!バカァ!!!!」
と羞恥に震えて真っ赤な顔で叫ぶイギリスの言葉が、トドメになったらしい。
超大国はブワッと涙を溢れさせて無言で駈け出して行った。
きゃあぁぁ!!!というハンガリーと…何故かリヒテンシュタインの歓声。
騒然とする会議場で
「お前らっ!席につけえぇぇ~~!!!!!」
と、議長のイタリア兄弟の代わりにドイツが怒鳴り声を上げる。
こうしてその日の会議は踊るどころか、重要な某国が戻ってこないので、開催10分で閉会になった。
「ねえ兄ちゃん…」
「ん?」
「イギリスって恥ずかしがり屋さんだったんだね。あんなふうにおっきな目に涙いっぱいだと怖くない…っていうか、可愛いよね♪」
「……お前…死にたくなければやめとけ。参戦したら終わるぞ」
「参戦?しないよ?ルートがいるし。俺はね…。
でも…世界はしばらく賑やかになりそうだねっ。当分洋服とかの発注で忙しくなりそうだ。
今のうちに注文きそうな国のサイズに合わせてイギリス好みっぽぃ服作っちゃおうかな~♪」
ニコリと北欧から東欧、オセアニアからアジアまで、値踏みするような視線を送るヴェネチアーノに、ロマーノはため息をつく。
ライバル2国を牽制するつもりがヤブから蛇をつついてだしたぞ…と、ロマーノは元宗主国にチラリと視線を送るが、まああれだ、こと恋愛にかける情熱に関しては、全世界を焼きつくすくらいの勢いがある情熱の国だ。
負けはしないだろう。
「とりあえずあれだ、財政もきついしな。まずはイギリス様にイタリアブランド売り込みに行こうぜ。」
「あ、それいいね~。」
ギラギラとした視線を各国がイギリスに送る中、商売人の兄弟は、ガタリと立ち上がって安全な位置を保ちながら渦中の国へと売り込みに向かったのだった。
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