プロローグ
フランスで開かれた世界会議後…今日はプロイセンも出席しているので、悪友3人で飲みに行く約束をしていた。
が、実際出席してみると、少々風邪気味という北イタリアの代わりにその日だけ南イタリア…つまりスペインの可愛い可愛い子分のロマーノが出席するということがわかった。
そうなるとスペインの優先順位としては悪友≦ロマーノとなるわけで……。
「あ~、全然いいよ。出席が今日だけなら行ってあげなよ。」
「おう、楽しんでこいよっ。俺様は最後の日までいるから、いつでもいいし」
ドタキャンにも限らず随分と気持よく了承してくれる悪友達。
「ほな、悪いなぁ。また明日にでも」
と、スペインが後ろをむいた瞬間、ガタリとフランスが立ち上がった。
「坊ちゃ~ん、今日ヒマでしょ?飲みに行かない?」
やけに嬉しそうなフランスの声が会議室に響く。
「あぁ?なんで俺が…」
と、目を通していた書類から視線をフランスに向け、口ではそう言うがまんざらでもなさそうなイギリス。
「いいじゃねえかっ。普段は来ない俺様がせっかく会議に出席してんだぜ?
ちったぁつきあえよ。」
と、そこでさらにプロイセンがそう言って後ろからイギリスの頭を抱え込んでグリグリと頬を押し付けると、イギリスは慌てた顔で
「ちょ、離せ!!」
と、ワタワタするが、プロイセンは
「来るって言ったらな~」
とケセセっと笑う。
「わかったっ!付き合えばいいんだろ、付き合えばっ!」
とぷくぅっと子どものように頬をふくらませて言うイギリスに、
「おうっ!付き合えばいいんだよっ、付き合えばっ!」
と、プロイセンはまったく悪気のない笑顔を浮かべた。
(隣国のフランスはとにかくとして…なんでプーちゃんにまであそこまで気ぃ許してんねん…。親分かて隣国なんやでっ)
素直でないイギリスは決して愛想よくは振舞わないが、それでも心を許している相手かどうかは纏う空気でなんとなくわかる。
そして…そのイギリスの数少ない“心を許している相手”に悪友二人が入っているため、スペインは嫌でも自分が取られている距離を実感して、イライラするわけである。
小さい頃は下手をすれば当時イギリスを引き取っていたフランスよりも懐かれていたくらいなのに、いつのまにか距離を取られ…結局アルマダの前あたりから手酷く拒絶された気がする。
おそらくそのあたりの時期に国政でひどく揉める事が多くて、嫌気をさされたのだろう。
それ以来、まだ全く初対面の他人の方がマシなくらい距離を置かれている。
それでもスペインは何度か思い切って接触を試みてはみたのだ。
柄にもなく緊張して近づいて行けば、妙にガチガチに精神的に武装してますというのがまるわかりで構えられ、ああ、嫌われてるんやなぁ…と、退散して終わること数回。
いつもならKYと言われるくらい他人の事を気にせず踏み込んで行く自分が、どうもイギリスを前にするとそれが出来ない。
そんな自分の焦燥にも気づかず、目の前でイギリスに当たり前に気を許されてベタベタする悪友二人に正直腹がたつ。
「坊ちゃん?プライベートではただの傷つきやすいお子様だよ~。虐めないでよ」
(虐めてへんわっ!仲間はずれで虐められてんの親分の方やんけっ)
「イギリス?あ~、なんつ~か、懐くと結構可愛いぜ?髪とかさ、硬そうなんだけど撫でてみると結構柔らかくて、ちょっと感触が小鳥さんに似てっぞ。」
(うっさいわっ!自分は一人で小鳥さんと戯れときっ!)
イライライライラ…こうしてイギリスが関わる事になると、スペインはイライラが止まらないのである。
くっそ~~!!!なんや良い手はないんかっ!!!
いっそお互い初対面に戻れたら、少なくとも自分の方はもう少しプッシュできる気がするのだが…。
せっかく可愛い子分が隣にいるのに、イライラしながら強い酒をあおるスペイン。
「おい…俺は明日は馬鹿弟とチェンジだからいいけどな、てめえはまだ明日1日会議あるんだろうが。記憶なくなるまでとか酒飲むなよ?」
隣で呆れた目でそういうロマーノの言葉にグラスを持つスペインの手がピタっと止まった。
「ロヴィ…今なんていうたん?」
「いや…だから俺は明日弟とチェンジだけど、てめえはあと1日あるだろって…」
「ちゃうわっ!その後…」
「…?記憶なくなるまでとか酒飲むなよ?」
「それやっ!!!!」
いきなり叫んだスペインに目を丸くするロマーノ。
「あ~、さすがロヴィや~~!!!おおきにな~~~!!!!」
さっきまでの苛立ちが一転上機嫌の笑顔に変わって、礼を言われたロマーノは戸惑うが、まあ酔っぱらいというのはこんなものだろうと、
「ああ、褒め称えていいぞ。」
と、適当にまるで某俺様のようなセリフを返しておく。
「ほんまやな~。さすが欧州を制したおっちゃんの孫やなぁ~。
で?決行はいつがええやろ?」
と聞かれた時点で、ロマーノは、ああ、これ酔ってんな、と、確信をした。
そこでまた適当に
「会議終わるの明日だし、明後日あたりどうだ?」
と返したその一言で、色々自体が動き始めるということを、この時のロマーノは想像もしていなかった。
「そやなっ、善は急げやっ!会議終わったら1週間ほど休みとっとるし、明後日フランスん家に殴りこみや~!!」
雄叫びをあげるスペイン。
そこでロマーノは初めて、あ、やっちまったか?と、自分の発言を少し後悔したが、すぐに、まあ…フランスだしな、いっか、と、見なかったふり、知らなかったふりをする決意を固めたのだった。
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