俺たちに明日は…ある?!四の巻_3

「館から持ち出す物は良いとして…」
リヒテンの部屋へ向かったギルベルトを見送ったあと、アーサーはアントーニョを振り返った。

「向こうで手に入りにくい物資をある程度は京で手配しておかないとな」
単に浮かれてただけではないらしい。

「おお、そうやったなぁ。」
と、こちらは考えているようで全く考えていなかったアントーニョ。

「日用品はフェリちゃんに、軍備関係はギルちゃんと相談しといて」
と、答える。

(特に引越しの手筈とかも考えず、実際に動くわけでもないなら暇なんじゃないか…)
と、一人でブツブツつぶやくアーサー。

「トーニョ、お前も少しは自分の頭使って動けよ。脳みそ腐るぞ?」
とまたまた容赦のない言葉が飛ぶ。

とりあえず優先順位は軍備関係なのだが…
アーサーの脳がフル回転を始める。

それにはまず、リヒテンの説得から始めないと…。
いくらローマの意向とはいえ、リヒテンが早々京を離れられるとは思えない。

リヒテンと離れる…そんな事は自分も嫌だし考えられないが、ギルベルトだって嫌だと思う。

まあ性格上それで働かなくなる事はないだろうが、逆に現実逃避に働きすぎて過労死する気がする。

だが今はリヒテンのところにはギルベルトが行っているだろうから、そちらは後回しでまず日用品か。

「フェリ~!」
アーサーは母屋にかけこんだ。

「あ、アーサー、良いところに…」
「ん?なんだ?」
「いや、離京に際して手配する物について一応確認を、と」
フェリは目録をアーサーに渡す。

「ん…こんなもんでいいんじゃないか?」
さ~っと目を通してアーサーが目録を再びフェリにさしだした。

「フェリ?」
目の前に差しだされた目録に気づかず、放心状態のフェリ。

「おい!大丈夫か?!」
アーサーに目の前で手を振られ、ようやく我に返ったらしい。

「ご、ごめんね!」
と、あわてて目録を受け取った。

「大丈夫か?働きすぎじゃないか?」
心配になっていつになく元気のないフェリに声をかけると、フェリはあわてて手を振って
「とんでもないよ!大丈夫っ。むしろ…働いていたいから…」
と小さく息をついて肩を落とした。

「そうか…?」
と、きにはなったものの色々やる事が山積みなので、先を急ぐ。

「トーニョ~!暇なら手伝え!!」
予備の武具の確認をするため蔵に行く途中で、ノンキに庭を掃いているアントーニョをみつけて、声をかけた。

「お前信じられんよなっ!こんな時によく庭掃除なんてしてられるもんだ!」
半ば八つ当たり気味に怒鳴り散らす。

「フェリなんて忙しすぎて意識半分飛んでたぞ!」
アーサーの言葉にアントーニョは頭をポリポリと掻きながらホウキを置く。

「はいはい。何をやればええん?」
「とりあえず予備の武具の確認手伝え!」
大将に対して命令口調のアーサーである。

というか…大将に手伝わせる雑務でもなかったりするのだが、気の良いボスは、はいはい、と素直にアーサーの後に続く。

「フェリちゃんが元気がないのは…別に理由があるとは思うんやけどな。
桜ちゃんの事とか…」
ボソボソっというオヤジのつぶやきに、キリキリ動いていたアーサーの足がピタっと止まる。

「どこの桜ちゃん?」
「フェリちゃんの彼女の…」
ああ、そういえば以前そんな事を…アーサーははっと思い出す。

「京を離れるということは…会えんくなるしなぁ…」
「連れていっちゃいけないのか?」
と、聞くアーサーに、あのなぁ…と、アントーニョはまた頭を掻く。

「つきあってまだ日が浅いしな。
男ならとにかく、嫁入り前の娘が男についていくわけにはいかへんやろ?」

ふむ…
「トーニョは会った事あるのか?」
「遠目からならな。朱雀通りの花屋の看板娘やから」
アーサーの頭の中でまた色々クルクルと考えが回る。

「よし!トーニョ。点検任せた!」
言ってアーサーは反転する。

「おい!アーサー?!」
「ちょっと私用!でかけてくる!」
アーサーはとまどうアントーニョを残して自室に戻った。


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