夢の行方
「今回の戦も見事だったな。」
アントーニョとギルベルトは戦勝報告にローマの城に来ていた。
畏まるアントーニョとギルベルト。
「今回の勝利後、播磨の青松家が王路城を明け渡してきやがった。
トーニョ、これはおめえにやる。
近日中に居を移しこれを拠点として中国征伐にはげめ」
「おおきにっ!任せたって!」
アントーニョは胸を叩いて請け負った。
いよいよ…始まったか。
アントーニョ、ギルベルトそれぞれの脳裏に色々な思いがよぎる。
「おめえの軍には期待をしているぞ。
万が一俺が志半ばで倒れたとしても絶対に足を止めるなよ。
日の国統一まで決して足を止めるな」
「おっちゃん…縁起でもない事言わんといて!」
敬愛する主君である伯父の言葉に、アントーニョはガバっと身を起こした。
「そんな顔をするんじゃねえよ、トーニョ。
例えばの話よ。久々の遠征になるからな。
どのくらい時がかかるのか、誰にもわからねえ。
俺がジジイになって死ぬ時におめえが側にいるとも限らんからな」
泣きそうな顔のアントーニョに、ローマは豪快に笑って見せた。
「まあ…トーニョ、おめえの軍は死なねえ。
それだけのものを与えてるしな。
王路に落ち着いたらこれまで集めた鉄砲も餞別に送ってやる。」
「鉄砲を!」
思わず声を上げるギルベルトにローマは目をむけた。
「ギルベルト、おめえが使いたいように使ってみろ。
派手に豪快にカエサル軍をみせつけてこい!」
「ははっ!」
ギルベルトは平伏する。
夢にまで見た最新の兵器、それを自由に使える日がこようとは。
普段冷静なギルベルトも心わきたつものを隠しきれない。
「…アーサーとリヒテンも連れて行け。鉄砲よりも城よりも…俺の大切な宝だ」
ローマの言葉に黙ってさらに平伏する二人。
「アーサーは俺が見出して俺の知る限りの事を教え込んだ。
いずれはギルベルトにも並べるほどの武将に育つ資質を持っている。」
「ああ、知っとるわ。
先の戦では初陣ながらギルベルトさながらの活躍をみせとったで。」
アントーニョが言うと、ローマは満足げにうなづいた。
「そうだろう。優れた能力を持つだけでなく、心根もまっすぐで芯も強い。
俺の唯一の友人だ。
ただあれもまだ子供だからな、もう少し手元で育ててから送り出してやりたかったが、こんな時代ではそうも言ってられん。
俺に代わって大事に育ててやってくれぃ」
「承知いたしました。必ず!」
これにはギルベルトが応える。
「リヒテンは…出自については、聞いたか?ギルベルト」
「はっ。」
答えるギルベルトにローマがうなづいた。
「まだ子供だったリヒテンの微笑に一目ぼれして、二人きりで話せる立場まで登りつめるのに3年かかったんだぞ?
あんな環境で育ちながら、これだけの環境の変化を柔軟に受け止める強さを持った娘だ。
硬く強い剣ほど折れる時は脆い。あの娘の柔軟さがその脆さを補い、あの微笑が傷を綺麗に癒してくれるだろう。
リヒテンがいる限りおめえは折れねえ。おめえが折れねえ限りはトーニョは死なん。
そして…トーニョがある限りはカリエド軍は走り続ける。
何があっても日の国統一を成せよ?よいな!」
「はっ!身命にかけて!」
ギルベルトは初めてローマの器の大きさを見た気がした。
と、同時にまるで永久の別れをほのめかすようなローマの言葉も気になった。
「恐れながら…」
と珍しく自分から切り出す。
「当軍なき後、大殿はいかがなされる?」
「ギルベルトが俺の心配とは珍しい!」
明日は雪が降るんじゃねえか?と、ローマはからかうように笑うが、ギルベルトは
「いかがなされる?!」
とまた繰り返す。
「案ずるなよ。」
その真剣な様子に、ローマは笑うのをやめて口を開いた。
「相変わらずこの京にとどまって東の今河に睨みをきかしてるぞ。
警護には南近江の明知を手配した。お前ほどではないが、あれも切れる男だからな。」
「ほぉ…明知を。そんなら安心やな。」
アントーニョはほっと息をつく。
明知光秀。お互い常に前線で飛び回っていたためいつもすれ違い、顔をあわせたことはないが文武両道の優れた知将との呼び声高い。
「要らぬ事を申しました。」
考えすぎだったか…ギルベルトも安堵する。
その様子を見て、ローマはうなづいた。
「わかれば良い。大所帯ゆえに色々支度もあるだろ。早々に館に戻るがいい」
ローマの言葉に平伏して、アントーニョとギルベルトは城を後にした。
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