俺たちに明日は…ある?!参の巻_5

ゆっくり遊びながら上機嫌のアーサーがギルベルトの庭の垣根をくぐる。

「自分なぁ…たまには玄関から入り?」
眉をしかめるアントーニョに
「え~。面倒くさい」
と、変なところで不精なところを見せるアーサー。

「まったく…」
しかたなくアントーニョもそれに続く。
足取りも軽く縁側に向かうアーサーが、ピタっと足を止めた。

「どないしてん?」
と言うアントーニョの足もピタっと止まる。そして硬直。
「え~と…見なかったことにしておこうな」
そのまま反転するアントーニョの言葉に
「うん。」
と珍しくアーサーも素直に同意して後に続く。

ギルベルトはすでに起きていた。
灯りも燈さず月リヒテンのみがかすかな光をともす部屋で腰を下ろしている。
問題は…そのギルベルトの腕の中にすっぽりと小さな影が納まっていたわけで…
ギルベルトの腕に支えられたリヒテンの細い肩がわずかに震えているように見えた。
剣に長けているだけあってアーサーは目が良い。
一瞬のうちにそれだけ認識して固まった。

「え~と…ギルベルトも一人身主義…返上?」
二人してこわばった表情でギクシャク歩いている。
ほろ酔い気分が一気に冷めた。

「…みたいやな…」
アントーニョもこわばった表情で答える。

「おかえりなさい、どうだった?」
広間で出迎えたフェリが目を丸くする。
「どうしたの?二人とも。すごい形相で…」
「いや…なんでもない…」
硬直したまま答えるアーサー。
「そう?」
不審げに言うフェリ。

「で、こっちにこれそう?ギルベルト達。」
フェリの問いに二人してブルンブルン勢いよく首を横に振る。

「そっか、じゃあ、食事を持ってくね。」
きびすを返しかけるフェリにあわてるアーサーとアントーニョ。

「わ~~~!!!フェリ!そだ!酌をしてくれ!酌!!」
アーサーがその首ねっこをつかむ。
「そうや!オレにも頼むわ!!」
アントーニョも言ってフェリの腕をつかんで広間に引きずり込む。

「お酌なら他の皆に…オレは食事を…」
その手から逃れて広間から出ようとするフェリ。

「フェリ!まあ飲め!!」
アーサーは手近にあった徳利をフェリの口に押し込んだ。

「ムグ…!!ゲホゲホッ!!」
むせて咳き込むフェリを強引に座らせる。

「な…なにするのさぁ!!」
涙目のフェリ。
「戦勝祝いに飲みなおそうや!!」
アントーニョも強引にフェリに杯を握らせ、なみなみと酒を注ぐ。

「無理だよ!二人のペースで飲んだら死んじゃうよぉ!」
フェリはどこから出したのか白旗を振って必死で逃れようとする。
「あっ!助けて~!ギルベルト!!!」
広間の入り口に向かって足掻くフェリ。

「ギルベルト?!」
「ギルちゃん?!」
同時に叫んで振り向くアントーニョとアーサー。

「一体何をしてるんだ?」
あきれた顔のギルベルト。
「リヒちゃん~!」
反射的にアーサー達が手を離すと、フェリはここが一番の安全圏とばかりにギルベルトの横にいるリヒテンの後ろに隠れる。
半泣きのフェリの頭をなでながら、リヒテンは可愛らしい頬をぷ~っと膨らませた。

「二人とも、フェリちゃんに何をしたんですか?」
リヒテンの援軍にフェリは
「ひどいんだよ~。お二人ともオレに無理に飲ませようとするんだよぉ!
あんな無茶なペースで一緒に飲んだら死んじゃうよぉ。」
と泣きつく。

「やれやれ…二人とも酔ってんのか…」
別の意味で赤くなって固まっている二人の顔を見てギルベルトが言った。
「はい…酔ってます…。」
(そういう事にしておこう…)
神妙にコクコクうなづく二人をギルベルトは不思議そうな目で見る。
「あ、二人とも今食事を持っていこうと思ってたんだけど、こっちで食べる?」
「食事を?ああ、こっちで取るわ」
フェリに応えてしばらく考え込むギルベルト。

さきほど…雑談中に肩を震わせて笑い転げていたリヒテンの背中をポンポンと軽く叩きながらなだめていたが…あれは見る角度によってはそう見えるのか…。

「なるほど。そういう事か」
と、一人で結論を出したギルベルトは、リヒテンを入り口あたり残してアントーニョとアーサーの方に少し歩を進める。
「んで、呼びにきたわけだ…」
としごく冷静な口調で言う。

ギルベルト相手に嘘ついても見破られるだろうな…とアーサーは言葉が出ない。
「…誤解といっても信じねえんだろうし…」
目を見開いて硬直しているアーサーをギルベルトは見下ろす。

「誤解…なのか?」
「まあ…せっかくお子様がない事ない事妄想してるんだろうから想像に任せておく。
ただリヒテンが可哀相だから言いふらすなよ」
ニヤっと笑い、そう軽い口調で言い置いてリヒテンの方に戻っていった。

(大人だ…。)
アーサーはほ~っと肩の力を抜く。
隣でアントーニョがやはり息を吐く気配を感じる。
「好んで一人身の余裕だな…大人だ。トーニョなら必死に言い訳してそうだもんな」
ギルベルトの後ろ姿と見比べて思わずつぶやくアーサー。
「どうしようもなくて一人身なおじさんで悪かったなっ。」
横でアントーニョがなさけない声で言った。


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