俺たちに明日は…ある?!壱の巻_2

波乱の予感


「トーニョ、天晴れな活躍だったな。わずか十分の1の手勢で敵軍を蹴散らすとは真に天晴れ!」
快勝した数日後、アントーニョは上機嫌のローマに呼び出された。
ローマ自らアントーニョとギルベルトに戦勝祝いの杯をそそぐ。
「派手に、圧倒的な力の差を見せ付けてだったな。見事だった」
命を受けた日のギルベルトの言葉をそのままに、隣に畏まるギルベルトにも目を向けた。

「今日お前らを呼びつけたのはほかでもない、褒美を取らせようと思ってな。」
上機嫌なローマの言葉にアントーニョは
「ほんま?!嬉しいわぁ!」
と満面の笑みを浮かべ、ギルベルトは無表情に頭を下げた。

「トーニョ、お前も戦功を挙げ身分が上がれば、戦場の作法だけ知っていればすむというわけにもいかなくなる。
貴族どもの遊びにつきあってやったり、饗応の支度をしたり、そういう必要もでてくるはずだ。」
「あ~、そうやなぁ。」
「だがお前の軍団は元々土農の集まり。そういう作法に通じるものはいねえだろ?」
「あ~うん。それもそうやわ。」
「そうだろう、そうだろう」
アントーニョの言葉にローマは満足げにうなづいた。
アントーニョの隣ではギルベルトが何故か嫌そうな顔をしている。

「だから、おめえら二人にそれぞれ一名ずつ、それらに通ずる配下をやろうと思う。
いわゆる秘書ってやつだ」
続くローマの言葉に、ギルベルトがため息をつきつつ小声で
「いわゆる目立ちすぎたネコの首に監視の鈴、というやつだな」
とつぶやいた。
それを聞いたアントーニョは慌ててフォローをいれる。

「ギルちゃん!おっちゃんが気ぃつかってくれてはるのに、何いうてるん!ほら!謝り!」
慌てて言うアントーニョだったが、ローマは上機嫌の体を崩さず、笑顔で言う。
「ギルベルト、そう言うな。
トーニョに二心ありとはさすがの俺でも思わねえぞ。
んでもって…お前はトーニョが俺に従ってるうちは俺に刃を向けねえのもわかってる。
別にお前らの監視じゃねえ。今回の措置は純粋に述べた通りの理由でだ」

ローマがとりあえず機嫌を崩さなかったのにほっとしつつもアントーニョは
「ほんま助かるわ。ほら、ギルちゃん!自分も礼を言っとき!」
と隣のギルベルトをうながす。
うながされてギルベルトも仕方なさそうに渋々
「ありがたきお気遣い感謝いたします」
と軽く頭をさげ、杯を口に運ぶ。

「うむうむ。」
上機嫌でうなづくローマ。

「俺の懐刀だからなっ。おまけに二人ともめっちゃ可愛くて俺のお気に入りだっ。大サービスだぞっ。大事にしろよっ」
機嫌よく穏やかでありながら最後は有無を言わせない強い口調で締めくくるローマに、さすがのギルベルトも押し黙るしかなかった。
そしてそれ以上その話に対する論議は無用とばかり、ローマは部下を向かわせる日程などを軽く申し渡した後は、今回の戦の話に話題を戻した。


その後帰りつくまでギルベルトは終始無言で考え込んでいた。
ローマの城に近い、アントーニョの武家屋敷の門をくぐると
「おかえりなさい!」
と庭を掃いていた軍団の若い者が声をかけてくる。

「おお~、帰ったで~。おっちゃんからぎょうさん褒美を賜ったわ」
無言で難しい顔のギルベルトとは対照的にアントーニョの顔は晴れやかだ。

新しい配下の他にも荷車いっぱいに積まれた金銀反物などが与えられた。
それらは次の戦の支度金や非常時の貯蓄以外は兵に気前よく配る。

苦労を共にした部下に多くの報酬を配ってやれる。
それがアントーニョには嬉しい。

戦の取り分はみんな平等に公平にわける。それがアントーニョの方針だ。
もちろん給金はそれとは別にローマから支給されてるので、全てが一緒とはいかないが、基本、アントーニョ的には通常は上も下も作らない。
各々仕事の差はあっても時間があえば普通に部下と同じ釜の飯を食べる。

そのおおらかさが今となっては問題だ。
宮中作法に通じる部下。
嫌でも予定では来週には来るらしい。これをどう扱うべきか。
ギルベルトにとっては頭の痛い問題だった。

部屋はどうする。
何を用意すればいい?
なによりそんなお高い奴がこの土農あがりの礼儀作法などほぼ知らないような他の連中とやっていけるんだろうか。
決裂してローマに色々吹き込まれた日には…

楽天家な大将とは対照的に悲観的な副将の深いため息が、戦勝と大殿からの多額の褒美にお祭り状態の楽天家集団の喧騒の中に埋もれていくのであった。



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