お兄さんは頭を打った事にしました_3

世界で一つ変わらぬモノ


何故付いてきてしまったのかわからない。
家に招かれるほど親しくはないはずのスペインの家に何故かイギリスは招かれていた。

家について居間に落ち着いて出されたのは甘いショコラータとチュロス。
「ええ子やな、それ食べたら少しシェスタし」
と、頭を撫でられて、思わずうなづくと、また
「ええ子やな。」
と笑顔を向けられた。

ああ…何百年ぶりだろう…。
はるか昔から自分をこうして子ども扱いするのは…子どもで居ることを許容するのは、常に唯一スペインだけだった気がする。

「子どもじゃねえよ」
と悪態をついても、
「え~、親分から見たら子どもやん」
と、ゆったりと流される。

これがフランスだったら
「子どもじゃないって言ってるあたりが子どもだって言うんですぅ!」
とでも言われるところだ。

色々気を張っていたのだろうか…言われるまでもなく、温かい物で腹が満たされると眠くなってくる。

「ここで寝たらあかんよ~、ベッドに行き」
と言う声に
「やだ…眠い」
と答えると、小さな苦笑交じりのため息。
「しゃあないなぁ」
と、膝裏に腕が回り、そのまま身体が宙に浮く。

ゆらゆらゆらゆら…心地良い揺れに眠気がさらにましてきて、お日様の匂いのするシーツの上に降ろされると、もう瞼が開かなくなっている。
でも離れていく体温に心細さが襲ってくる。

「…スペイン……」
イギリスは目をつむったまま手を伸ばした。
「ん~?」
「…寂しい……寒い……」

からかうか鬱陶しがるか…そんな反応の国々の中、この男は弱みを晒せば絶対に拒絶しない…与えようとしてくる…そんな計算のもとに過去にも散々いろいろして、大概嫌われたはずなのだが、やはり目の前で弱々しく手を伸ばしてみれば、ホラ、

「しゃあないなぁ…」
と、隣に横たわって体温を分けてくれるのだ。

その懐に潜り込んで胸元に顔を埋めれば、お日様の匂い。

「お前は…忘れたりしないよな?」
と口にすれば、
「せえへんよ。」
と、当たり前に返ってくる。

「もし…親分が自分の事イングラテラやてわからんくなっても…寂しん坊の自分を温めてやらなあかんて事はきっと忘れへんわ。」


はるか昔…同じ事を言った。
フランスの目を盗んで膝の上でお菓子をもらっていた頃…

「自分はちっこくてかわええなぁ…」

と顔を綻ばせるスペインに自分が膝に乗れないくらい大きくなって、見た目も変わったらもう嫌いになるか?と、不安になって唯一無条件で好意を向けてくれるこの男にそう聞いたら、

「そうやなぁ…見かけ変わっても自分のことちっちゃなイングラテラやってわからんくなっても、寂しん坊の自分を温めてやらなあかんて、きっと思うわ。」
そうこの男は言ったのだ。


手を伸ばせば届く事を無意識に知っている。
弱っている心を晒しても拒絶されないのも…。

「…だからお前は…ダメなんだよ…」
ポツリとこぼすイギリスに、
「何でダメなん?」
とクスクスと笑みが降ってくる。
からかうようなものではなく、ああ、かわええなぁ…という時と同じ笑み。
「…そんなだから…俺につけこまれるんだ……」
「ええよ。つけこまれても。親分の可愛い可愛いイングラテラになら、喜んでつけこまれたるから、安心して休み?」
頭をなでる優しい手。

「それで…いつかコロンて手の中に落ちてきてくれればええんやけどな…」
「…コロン…て?」
「そう、コロンてな。そしたら掌中の珠として大事に大事に守ったるで?
絶対に傷つかんように、誰にも触らせへんで、大事に大事にな?」

大事に大事に…傷つけない……それはおまじないのように、半分眠りかけている頭に入り込んでくる。

ああ…傷つきたくないんだ…からかわれないように強がるのも…好かれるように装うのも…もう疲れた…。
でもそのままだと嫌われる…。頑張ってさえ、忘れ去られる程度にしかなれないんだ…と、クスンクスンと泣きながら訴えると、温かい指が涙をぬぐい、大きな手が涙で冷えた頬を包んだ。

もうええやん…親分のお宝ちゃんになり?
親分なら自分を試したりせえへんし、傷つけもからかいもせえへんよ?
大事に大事に掌中にしまいこんで可愛がったる・
泣き虫で寂しん坊な可愛いイングラテラ…。

…本当に?
ホンマやで?
…じゃあ…コロンて…落ちて…や…る…

夢現でそんなやりとりを交わした気もする…が、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、イギリスにはわからない。

ただひどく温かい気分でとてもよく眠れた気がした。



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