「ああ、母さんの幼馴染なんだよな。俺も小さい頃あった事あるよ。秋ちゃんっていう和風美人。」
「じゃ、なんとかならないか?母屋で非常ベルを鳴らしてもらって、離れの人間をみんな母屋に集めたい。他には理由を言わずに後で誤報って事にするようその秋ちゃんに頼めないか?」
アーサーの説明が終わるのを待たず、フランは自分の携帯のボタンを押している。
「こんばんは~♪秋ちゃん、非常事態なんだそうで…ちょこっと母屋で非常ベル鳴らしてくれない?
お願い♪」
あまりに緊張感のない言葉…でもまああのフランソワーズの幼馴染というからには、察しの良い人間なのだろう。
準備する間もなくいきなり非常ベルがなった。
一瞬焦った顔をするアーサーだが、まあなったものはしかたない。
「トーニョ、俺はこの手だし、フランよりはお前の方が力あるし頼めるか?
氷川夫妻が部屋を出たところで、夫妻の離れのタンスにギルがいないか確認してくれ。
いたらとりあえず俺らの部屋に隠すって事で。
俺らはお前が風呂入ってて今服着てるとでもいっておくから」
「了解やっ。任せたってっ!」
アントーニョの返事を聞いて、アーサーとフランは立ちあがって離れを出て母屋に向かった。
二人を見送ってアントーニョも立ち上がると一路氷川夫妻の部屋へ。
夫妻がやはり慌てて母屋へ向かうのを確認すると、ソッと中に忍び込んで一直線に目的の場所を目指した。
入って次の間の大きな押し入れのようなタンス。
チラリと下に香炉があるのを確認すると、タンスを開ける。
そして中を見て心底ホッと息をつく。
向こうも同じみたいだ。
「時間ないから、このまま抱えてくわ。大人しくしててや」
アントーニョは猿ぐつわをされて手足をぐるぐる巻きにされたギルを軽々と肩にかかえあげるとタンスを閉め、一気に離れの外を目指した。
アントーニョはそのまま自分達の離れへ戻ると、急いでギルの猿ぐつわを外して手足を解放し、
「とりあえず説明は後や。、押し入れにでもかくれててや。」
と、ギルベルトに指示をして、服を脱ぎながら風呂場に駆け込む。
そして頭からシャワーをかぶるとバスタオルで軽く水気だけ取り、浴衣を身にまとい、部屋を飛び出した。
母屋にはすでに全員が集まっていて、旅館の人間が謝罪している。
アントーニョはそこにタオルで髪を拭きながら走って来て
「フラン、なんやったん?」
とちょっと離れた所から声をかけた。
「ああ、誤報だって。つかなに?トーニョ浴衣なんか着てたの?」
振り向いて一瞬アントーニョに注目、そしてからかうように言うフラン。
役者だなぁ…と心底感心するアーサー。
「仕方ないやん、即服でなかったんや。これが一番早かった。戻ったら着替える」
と、アントーニョもその会話にあわせて口を尖らせてみる。
その二人の会話に周りから笑いが広がった。
「災難だったね、アントーニョ君。」
「あら、でも浴衣似合うわよっ。良い機会だからそのまま着てたらいいじゃない」
と笑顔の氷川夫妻。
この夫妻があの誘拐犯で…おそらく殺人犯なのか…。
好意を持っていただけに複雑な気分になるアントーニョ。
しかしもちろんそれを表面にはだすことなく、
「いや動きにくいから。即着替えますわ。パジャマも持参してるし」
と苦笑いでそれに返す。
それからアントーニョはフランとアーサーにかけよって、
「フラン、あ~ちゃんに変なちょっかいかけてへんやろなっ。」
と、フランの襟首をつかむ
『フラン…ギルちゃんみつかったんやが…いったん誰にもわからないように秋ちゃんにギルちゃん保護して隠しておいてもらえへん?』
アントーニョはそうフランの耳元で他にわからないようにささやいた。
「大丈夫っ!もうお前の要望通りにきっちりと!」
そのささやきに対して答えるフランの言葉。
他にも聞こえる大きさだが、アントーニョのささやきが聞こえない周りには先のアントーニョの言葉に対する返答に聞こえる。
「さっさと避難させるか避難遅れても着替えるまで待たせて自分の側で護衛するか究極の選択やったんやけど、ま、おかしな事してへんならええわ。」
と、アントーニョが言うと、
「あんな事あったあとだと心配ですもんね、やっぱり」
と、それに対して澄花がうなづいた。
「あ、ちょっと待ってよ。どうせ今日も眠れないだろうし、軽食お願いしてくるね」
周りがそれぞれ戻りかける中、フランが謝罪をしていた綺麗に着物を着こなした女性にかけよって何かを話している。
おそらくフランが言っていた”秋ちゃん”なのだろう。
「お願いしてきたよ♪戻ろう。」
フランが戻ってくる。
交渉成立らしい。
そのまま3人揃ってアントーニョ達の離れに戻る。
中に入って和室にあがりこむと、アントーニョはタンスの側に自分の鞄をおいて中を探りつつ、フランに座る様に指示をする。
「ギルはそのまま旅館の秋ちゃんにかくまってもらうおう。それまでここから出ないように。部屋からいなくなったって気付いたら氷川夫妻が様子見にくる可能性があるし。」
外に聞こえるほどではなく、タンスの中のギルベルトと部屋にいる二人にだけ聞こえるくらいの絶妙な大きさの声でアーサーは言った。
「詳細と状況はギルにはかくまってもらってから携帯で話す。とりあえず何で拉致られたのかわかるまではギルが救出されてここにいるって知られるのはまずい。とにかくギルがいないふりで秋さんからの連絡待つぞ」
アーサーの言葉に全員うなづく。
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