仲居さんが食事を運んでくるので雅之も自室の離れに戻って行く。
アントーニョは並べられた料理を見てアーサーを起こそうか少し悩む。
寝かしておいてやりたい気もするが、きちんと食べさせないといけない気もする。
「あ~ちゃん、ご飯やで。起きぃ」
結局起こす。
「…食べたくない…」
起きるもののそういうアーサーに内心少しため息をつきながら、アントーニョは昨日あれからフランソワーズからの電話で身代金の話をされた事を話した。
「せやから…いつ受け渡し頼まれるかわからんし、ちゃんと食べて体調整えておかなあかんよ?」
と最後にそう〆ると、アーサーもしぶしぶ箸を取るが、アントーニョ的にはもちろんアーサーにそんな危険な役をやらせる気はさらさらない。
そんなこんなで9時半、警察が二人を呼びに来た。
「おはようございます。お呼び立てして申し訳ありません。今回の捜査責任者の和田と言います。」
母屋の、昨日事情聴取に使われていた部屋に連れて行かれると、捜査責任者らしい男が立ち上がってお辞儀をする。
「いえ、身代金要求があったそうですね」
勧められて椅子に座るとそう言うアーサーに、和田はうなづいて自分も椅子に腰をかける。
「はい。フランシス・ボヌフォアさんの親御さんから身代金の管理を含む全てをカリエドさん、カークランドさんに一任するというご連絡をいただいてます。」
「そうですか」
と、アーサーはうなづいた。
「実は今ここにいらして頂いたのはボヌフォアさんの親御さんから色々を一任されているというの確認するためというのもあったのですが、もう一つ、8時過ぎに犯人からあった電話で、身代金の受け渡す人間としてカークランドさんを指名されたからなんです。」
「ちょ、まってや!!あーちゃんにそんな危ない真似させられへんっ!俺がいくわっ!」
アントーニョが焦って言うが、アーサーがそれを押しとどめる。
「俺指名なんだろ?指定された以外の事して何かあったらどうすんだ。俺が行く。」
「そんなんあかんわっ!危ないやん!」
「危ないのはトーニョだって同じだろっ!」
「同じやないっ!わざわざ指名してくるあたりがあやしいやんっ!あーちゃんおかしなことされたらどないするんっ!」
「お前の心配のしかたの方がおかしいって…」
アーサーはため息をついて、すみません、つづけてください、と、半ば強引に話を戻した。
「はい。それでちょっと問題がありまして…まず、こちら、旅館の方で用意された新しいプリペイド式の携帯電話です。」
そう言って和田はアーサーに電話を差し出す。
「こちらで犯人から指示を直接カークランドさんにするとの事なんです。一応…犯人の指示で旅館内の広大な庭や周囲の山には警察を配置するなとの事で、上から人命優先の指示が出てますので基本的には従います。それでも可能な限り警護はしたいとは思いますがなにぶん広大な範囲ですし、この田舎で同時に殺人の方の捜査も行っているので周辺の県警に応援は頼んでおりますが、それでも人員的に行き届かない面もでて多少の危険は伴う可能性がなきにしもあらずなんですが…」
「別に俺の身に関しては自分の身は自分でなんとかできるので、ご心配には及びません。やらせて頂きます」
「あかん~~!!!」
「どうしても止めるなら、今この場で舌噛み切るぞ」
アーサーの言葉にアントーニョはピタっと止まった。
そして大きくため息。
「そういう脅しは卑怯やで…」
「卑怯でもやるっていったらやるんだっ!」
そう言いきってアーサーは携帯を受け取った。
「実は…それだけではないんです。」
和田は言って立ち上がりかけるアーサーを見上げた。
「犯人は…身代金を受け取った時点で一人、カークランドさんが自力で時間内に宿についた時点で一人人質を解放すると言ってるんです。つまり…」
「あ~…妨害があるかも…ということですね?それも了解です。」
何か言いたげなアントーニョを遮って、アーサーはとりあえず了承する。
「10時半に犯人からの最初の連絡が入るとの事です。期限は12時半。まず身代金を持って自室で待つ様に指示があったのでそのようにお願い出来ますか?」
和田の言葉にアーサーはうなづいて身代金の入ったケースと携帯を手に離れに戻る。
10時30分、携帯がなる。
「もしもし…」
緊張して出るアーサー。
『始めの指示だ。今自室だな?カーテンをしめろ。』
電話の向こうからは当たり前だが聞き覚えのない男の声。
「ああ。」
アーサーは言ってカーテンを閉める。そしてその旨を伝えると、男はさらに言う。
『ではまずお前の携帯を教えろ。』
「わかった。」
アーサーが自分の携帯を教えると、いったん携帯が切れ、自分の方の携帯に電話がかかる。
『まず警察から預かった電話はそのまま押し入れの布団の中にでも入れておけ。今後はこのお前の携帯へ指示を送る。』
アーサーは犯人の指示通り携帯を押し入れの布団の中に隠した。
『隠し終わったら金を持って、自分の携帯も目立たない様に持ち、庭の左側の道から露天方面へ向かえ。』
「ああ。」
アーサーは携帯を自分のコートの内ポケットにしまうとスーツケースを持って立ち上がった。
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